すでにスタグフレーション
国土強靭化へ舵を切れ
物価上昇で実質賃金は下落
4月から消費税が8%に引き上げられた。全国紙や証券関係者などには、実体経済への影響は想定内でマイナスの影響は少ないと伝える情報が多い。しかし、現実には円安と消費税増税で物価が上昇しても、新規の雇用を生み出す投資(有効需要)は増加して来ない。正規雇用が減る一方、非正規雇用だけが増加するので賃金は下がる。物価上昇が実質賃金を低下させるので実質消費も減少する。つまり、不況が継続するなかで、物価が上昇するという状況になってきている。これがスタグフレーションという現象である。
なぜこうした事態になってきたのであろうか。
第一に、超金融緩和で円安誘導(円の切り下げ)をしたことである。円安にしたのに、輸出数量はほとんど増加せず、輸入数量は減るどころか、エネルギーと原料や食料などの主要輸入品はかえって増加している。長年の円高で輸出業者は、消費国で消費する製品は当該国で生産する方針になっていたのである。円安誘導を進言した学者にはこの認識が乏しかった。
私はドル円相場は1㌦=90円ぐらいが日本経済にとって適正な為替レートであると考えている。東日本大震災後には円高であったために、比較的安くLNG(液化天然ガス)や石油を輸入できたのである。
第二に、国民全体から見て、平均賃金の上昇は極めて小さく、物価上昇の方が大きく、実質賃金はマイナス(実質消費もマイナス)になっている。連合の発表によれば春闘による賃上げ率は2・08%である。しかし、一時金が多く、将来にわたって基本になる賃上げ(ベースアップ)ではない。さらに、現金給付総額(勤労統計調査による事業所規模5人以上)の前年比をみると、それぞれ、3月0・7%、4月0・9%の増加に過ぎない。
一方 消費者物価は円安分と消費税増税分で、これ以上に上昇している。したがって、実質賃金と実質消費は明らかにマイナスである。毎月の勤労統計調査による実質賃金指数をみると、対前年比では2013年7月からマイナスになっており、14年4月にはマイナス3・1%になっている。超金融緩和による円安が、消費者物価と光熱費、流通コスト、交通費などを引き上げたためである。
第三に、雇用情勢は決してよくなっていない、むしろ内容が悪化している。本年4月の有効求人倍率(季節調整済)は1・08倍であり、17カ月連続で改善しているという(内閣府発表)。しかし、中身をみると、正規社員は0・61倍に過ぎず、10人応募すれば4人は採用されない。しかも、本年2月の0・67倍に比べると、悪化している。求人の増加は非正規社員が多く、これが賃金の平均値を下げているのである。
私は現在の法人税は基本税率25・5%を30%に引き上げて、経営者が国内に設備投資を行い、正規社員を増員すれば、法人税率を引き下げる投資減税を主張している。単に法人税だけを下げたところで、雇用が増えることは期待できないことはすでに立証済みである。条件付きの投資減税など、企業が正規社員を採用した方が有利になるインセンティブが必要である。
第四に、製造業の雇用が年々減少していることがあげられる。これは円高対策と企業の現地主義(現地の消費者に販売する商品はその地で作る)の結果であり、時代の趨勢(すうせい)である。本年4月の賃上げ率は製造業では平均1・7%である。全就業者のうち製造業は16・9%であるから、これを全就業者に引き直してみると、1%程度の賃上げ率になる。他方、医療・介護・福祉関係の就業者は増加しており、全就業者の12%近い状況である。しかし、この分野には非正規社員が多く、平均賃金を引き下げている。今後、この分野の雇用需要は必然的に増加して行くことを考えると、最低賃金の引き上げ(東京で1000円)と正規社員への登用と雇用条件の改善が急務であろう。
安倍総理は6月24日に、「経済財政運営と改革の基本方針」と「日本再興戦略」改訂版、「規制改革実施計画」を閣議決定した。しかし、これらの政策は新自由主義にもとづく日本の経済社会を破壊する政策であり、かえってデフレを促進するであろう。
現在求められている政策は、“有効需要を喚起する政策”であり、すでに議員立法で成立している国土強靭(きょうじん)化法の具体的な肉付けをすることである。この法律には、地方自治体が関係省庁に国土強靭化に関する具体的な提案を行い、中央省庁が具体化する段取りになっている。
日本がスタグフレーションに陥るのは、財政による有効需要喚起政策を優先せずに、金融緩和だけを超レベルにして、走らせたことに原因がある。現在、多くの日銀マネーが海外に流れて投機的な活動に使われていると報ぜられている。政府と日銀は、インフレターゲット方針を止めて、国土強靭化による有効需要喚起政策に重点を移すべきである。これこそ日本を取り戻す最適な戦略である。
(きくち・ひでひろ)






