腐敗断ち切れぬバイデン米政権
エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
次男の絵画、高値で販売へ
大統領へのアクセスとの疑惑
アメリカでジョー・バイデン政権が誕生してから、ちょうど半年が経(た)った。不安の中で発足した同政権に大きな混乱は見られないが、その理由は幾つかある。
その一つは、より大きな課題である新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)への対応と、急速に進められているワクチン接種だ。
民主党寄りのメディア
二つ目の理由は、米国の主要なメディアが民主党寄りであることだ。以前に本紙で紹介したように(2020年11月2日付当欄)、好意的、組織的、そして積極的にバイデン候補を応援した。「バイデン大統領」を誕生させたと言って過言ではない米メディアが、同政権について不都合な報道をするはずがない。なぜなら、自らの責任を問うことになるので、バイデン政権内に混乱があっても原則として報道はしないのだ。
三つ目の理由だが、基本的にバイデン政権は、エリート層が望んでいる政策を継続し、大きな変化をもたらしていないからだ(これはトランプ前政権と大きく違っている。だからエスタブリッシュメントとメディアが、あれほどトランプ前大統領と対立していた)。
後者の二つの理由で、バイデン政権や民主党をめぐる大きな腐敗問題がきちんと報道されず、腐敗を断ち切ることができない。
字数の関係で、与党の腐敗の全てを紹介できない(実際に分厚い本ぐらいの長さが必要)が、二つの最近の事例を取り上げる。しかも、この二つのケースは、民主党のトップと直接関係するものだ。
最初の事例は、バイデン大統領の次男、ハンター氏と関連するが、ウクライナや中国などでの以前の賄賂をめぐる疑惑からすれば、要注意だ。
今回のスキャンダルは、交通事故で亡くした実母の旧姓を名付けられたハンター氏が、10月にニューヨークのあるギャラリーで自身の15点の絵画作品を販売することになったことだ。値段は比較的に小さい油絵に対して800万円、より大きい作品に対して5500万円が設定されているという。
問題はハンター氏がアーティストではないことだ。アートスクールに通ったこともなければ、有名な画家の下で指導を受けたこともない。近年、自分でやり始めたばかりだ。才能があるかどうかは見る人の判断次第だが、別の事件と似ている。
つまり、アーティストではない人の作品に対して多額の金を払うのは、大統領自身あるいは連邦政府へのアクセスを買っているのではないか、との倫理上の指摘や批判が出ているのだ。当然なことだ。以前にも、専門家でもないのに、ウクライナで毎月900万円の「顧問料」をエネルギー分野の会社からもらい、父親が副大統領を務めるオバマ政権が終わると顧問料が半額になり、1年が経つと契約が突然、打ち切られるということがあった。
こうした批判に対してホワイトハウスは、作品の購入者名はハンター氏本人にも「伏せる」としている。だが、ギャラリーのオーナーは以前の別のインタビューで、1年前からハンター氏と「多いとき、1日5回も電話などで話をしている」と発言しているので、そう簡単に信じることができない。むしろ匿名にすることによって、知る権利があるはずの国民は、作品の購入によってアクセスを確保する人と目的を知らないままで終わってしまう。
株で儲けるペロシ夫婦
もう一つ、スキャンダルが明らかになっている。ハイテク企業の多いカリフォルニア州選出のナンシー・ペロシ民主党議員が、女性として初めて下院議長を2007年から務めているが、どんどん富を集めてきたのは有名な話だ。今回も、法の成立について事前の情報を知ったペロシ氏の夫が、グーグル社関連の株で6億円も得をした。去る3月上旬にもペロシ夫婦は、11億円のマイクロソフトの株を購入した。それは、国防総省が同社との大型の契約を発表する直前だった。
アメリカの第33代大統領、ハリー・トルーマンの「政治によってお金持ちになるのは、犯罪者のみ」という名言があるが、あいにく現在のアメリカには、そのことを指摘する政治家がいない。