中国軍の戦闘機開発事情
元統幕議長 杉山 蕃
国産ステルス機に傾注
課題はエンジンの高性能化
米大統領選挙を間近に控えて、中国、北朝鮮の軍事的行動は不活発の感がする。軍事的緊張を高める行為が、強硬派のトランプ米大統領を利することとなるのを恐れての判断ではないかと推察している。今回は、年初に中国軍の空母計画の縮小(国産艦4隻から3隻へ。艦載機開発の遅滞)について紹介したが、関連して戦闘機開発事情について私見を披露したい。
解放軍戦闘機には、大別して三つの流れがあるとみてよい。
信頼性低い「コピー機」
一つは、ソ連・ロシアからの導入で、初期の供与、その後の生産品購入、ライセンス生産等で入手したもので、中国軍戦闘機戦力の基幹である。最近の導入機種はSU27、SU30、SU35で約330機である(27のライセンス生産機J11を含む)。これらは、機体数および整備予備数に見合ったエンジン(AL31、AL41)を伴っており、性能、信頼性共に高い。
第二は所謂(いわゆる)「コピー機」といわれる国産機で、SU27をコピー生産したJ11B、SU30をコピーしたJ16、SU33設計図を基に生産したJ15が該当し約200機を保有するが、国産エンジン(WS10)の性能・信頼性が十分と言えず中国軍の悩みの種となっている。特に艦載機J16の不調は、空母計画に影響していると見られ深刻である。
第三は、国産機である。国産機の代表は、やや旧式化が目立つJ10型機で468機を保有する(令和2年防衛白書)。本機は中国が航空戦力近代化の第1弾として企画したプロジェクトであるが、列国との技術格差が大きく、イスラエルから技術導入、さらにエンジンはロシアからAL31のライセンス生産により、開発にこぎつけたものである。30年を経て、いまだ保有機数の約半数を占めている。
そして次なる国産機は、最新鋭のJ20ステルス戦闘機である。本機はステルス時代を迎え、米F22、F35、露SU57の諸情報を入手、これらを参考に設計したとされる。2010年初飛行したが、ステルス機独特の大型双発機で各所に国産らしい工夫を凝らした野心作である。
肝心のエンジンについては、テスト段階では、ロシア製AL31、AL41の転用、国産WS10の性能向上型、新規国産WS15等が取り沙汰されているが、確たる査証はない。国産エンジンの性能不足に悩み続けている中国が、この難題をいかに処していくか興味深い。
こうして見ると、ロシアから購入、ライセンス生産した機体は、信頼できる運用状態にあり、台湾・尖閣正面、南シナ海等緊張地域に配置され、コピー機部隊は奥地に配置されている(漢和防務)状況が頷(うなず)けるところである。
今後の趨勢(すうせい)について推察する。独特の知的財産権解釈を展開し非難を浴びた「コピー機」は、その後のロシア側の厳しい契約条件により影を潜めつつあり、主流とは成り得ない状況にある。特に搭載エンジン開発の技術的ギャップが大きく影響していくと見られる。ロシアからの購入(含むライセンス生産)は、いつでも道は開かれているが、ロシアのステルス機(SU57)も昨年、量産型が初めてロールアウトした段階で、開発中の域を出ない。
現に第1列島線周辺においては、日米のF35・F22の配備が進んでおり、露中のステルス機配備は後れを取っていると言える。従って中国の残る手段は目下、多大な努力を傾注している国産ステルス機J20の開発促進であるが、既述のごとくエンジン開発に苦戦していることは否めない。
大出力のノウハウ入手
他方、中国側から見てみたい。エンジン開発には苦労しているが、「大行エンジン」で知られる瀋陽・西安の発動機技術はMIG21に遡(さかのぼ)り、各種のエンジンのライセンス生産・独自開発に携わり、高い技術レベルにある。最近ではロシア製AL31のライセンス生産を始め、待望のAL41を入手、大出力・推力偏向のノウハウも入手した。加えて露ステルス機用エンジンへも触手を伸ばしていると取り沙汰されている。近年WS15なる高性能エンジンの開発を公表しているが、中国戦闘機開発の中核を握るプロジェクトになると考えられ、その帰趨(きすう)が注目されるところである。
我が国は、F35の導入に加えて、F2後継に我が国を主体とする開発が決まっているが、中国J20の展開を注視しながら、「F9エンジン」技術を背景に、技術的優位を目指してほしいものである。
(すぎやま・しげる)