コロナで批判も支持率回復 ブラジル・ボルソナロ大統領
「コロナは軽い風邪」「アマゾン熱帯雨林はブラジルのもの」など、数々の過激な発言で知られるブラジルのボルソナロ大統領。経済活動を優先させた新型コロナウイルス対策は議論の的となり、世界のメディアをにぎわせた。メディア嫌いで知られ、国内の主要メディアから批判を浴びているが、一方で、国内支持率が過去最高を記録するなど驚くような世論調査結果も出ている。(サンパウロ・綾村 悟)
経済優先に広がる理解
強固な宗教保守派基盤
昨年6月、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)に出席したボルソナロ大統領が、大阪の商店街を警護官と一緒に散策する様子がインターネット交流サイト(SNS)にアップされた。
大統領に気付いた市民らが記念撮影を求めて殺到し、ボルソナロ氏が気軽に応じる様子は、瞬く間にネット上で拡散した。それは、首都ブラジリアの大統領官邸前などで支持者らと交流する様子そのままだった。
ボルソナロ氏の気さくな姿や歯に衣(きぬ)着せぬ物言い、既存政治を批判し大政党に属さない姿勢は、政治改革を求める「新保守派」と呼ばれる若者たちの間で人気を集め、大統領に当選する大きな要因となった。
一方で、女性蔑視とも取れる過去の発言やアマゾン熱帯雨林の開発を優先する姿勢のほか、新型コロナ対策では、自身の主張に反対する保健相を相次いで辞職に追い込むなど、その言動は多くの批判を浴びている。
特に、ブラジルで新型コロナ感染が急拡大した4月は、隔離政策を導入した地方自治体を批判するボルソナロ氏の人気が急落、支持率は最低の27%にまで落ち込んだ。その後も、リベラル色が強い国内メディアとの確執が続き、同氏のイメージは悪くなる一方だった。
ところが、ここ数カ月、ボルソナロ氏の支持率が回復基調にある。ブラジルの世論調査会社ダッタ・フォーリャ社が8月14日に公表した世論調査では、支持率が過去最高に達したことが分かった。それによると、支持率は7月の調査から5ポイント上昇して37%を記録、不支持率は10ポイント下がって34%だった。
メディアから伝わってくる大統領像では、支持率が不支持率を上回る事実は理解できない。一方で、同氏が支持される背景には、「保守」「コロナ対策」「格差問題」のキーワードがある。
ブラジルは、リオのカーニバルなど開放的なイメージで捉えられがちだが、日本人が想像する以上に保守的な側面を持つ。国民の9割以上がキリスト教徒だが、近年はカトリックに代わり保守的な福音派の勢力が強くなっている。人口比では、福音派は1991年の9%から2016年には29%へと急成長した。その勢いは「福音派ファッション」と呼ばれるアパレル市場も生み出したほどで、保守化が進む社会の一面を示している。左派政権下で進んだ世俗化に反発してきた宗教保守派が、ボルソナロ政権の支持基盤となっているのだ。
次が新型コロナ対策だ。経済活動再開を優先する同氏の姿勢は強い批判を浴びてきた。しかし、最近では、コロナ禍による経済への打撃があまりにも大きなことが有権者に伝わってきた。今年3月からの数カ月で、失業者が800万人を超え、現在の失業率は13%を超える。
ボルソナロ氏は、一貫して医療崩壊を避けながら経済活動を続けることを主張し続けてきた。医療関係者やメディアの批判は受けているが、大統領の言動が経済活動を続ける人々の免罪符となってきた一面も見過ごせない。
失業や収入減に陥る国民が増える中、ボルソナロ政権は、生活困窮者や零細企業向けに600レアル(約1万2000円)の緊急援助金を4月から毎月配布している。緊急支援金は、これまで労働党の基盤だった北東部や貧困層に多くの恩恵を与えており、ボルソナロ氏に支持を変える人々も出ている。
軍人上がりのボルソナロ氏は、ブラジル政界でよく見られる政治エリートではなく、既得権益層や社会格差に反発を持つ有権者と馴染(なじ)みやすい側面もあった。2年後の大統領選に向け、ボルソナロ氏の今後の言動と支持率の推移が注目されるところだ。