米政権が提起した新冷戦の構造
平成国際大学教授 浅野 和生
宗教弾圧する国との戦い
信教の自由を掲げ外交を展開
7月18日、ペンス米副大統領は第2回の「信教の自由促進のための閣僚会議(Ministerial to Advance Religious Freedom)」で基調講演を行った。この会議は、昨年7月にトランプ大統領によって創設されたものだが、参加国は初回の80から106に増加した。
この会議の立ち上げは、一般的なトランプ大統領のイメージとは別の顔を浮かび上がらせることになった。
昨年7月26日、第1回会議でペンス副大統領は、トランプ大統領が「アメリカ合衆国は『信仰の国(nation of Faith)』 であり、信教の自由はわが政府の最優先事項だ」としばしば語っていると紹介した。そもそも、アメリカ合衆国は、信教の自由を求めて新世界にたどり着いた人々から始まったもので、憲法においても、信教の自由が全ての人権の原点と位置付けられている。つまり、トランプ政権は、その建国の大義を掲げて、地球を舞台に外交を展開すると宣言したのである。
中国でキリスト教拡大
本年4月付の『2019年世界の信教の自由 年次報告』は、2018年に「信教の自由促進のための閣僚会議」を開始したことは、アメリカが世界のどの国より、内外の信教の自由のために行動する国となるための礎石を据えたと評価した。一方、過去20年間、宗教および信徒を弾圧してきた中国の実態が、今や明らかになりつつあると指摘した。
チベットではラマ教が弾圧され、ダライ・ラマの写真を掲げることすら禁止されている。キリスト教については、聖書は中国政府によって書き改められ、教会は閉鎖され、あるいは破壊され、牧師は投獄されている。法輪功の信者は、収容所において電気杖で叩(たた)かれ、医療的、心理的な「治療」を強要されている。そしてイスラム教徒、とりわけウイグル族は、集中キャンプに収容され、筆舌に尽くし難い取り扱いを受け、信仰を放棄するように迫られている。
同報告を基に計算すると、中国の仏教徒は2億5000万人、キリスト教徒が7000万人、イスラム教徒は2500万人である。
ところが7月18日の演説で、ペンス副大統領は中国のキリスト教徒の見積もりを大幅に引き上げた。すなわち、社会主義中国が誕生した時、中国のキリスト教徒は50万人に満たなかったが、2世代70年を経る間にキリスト信者は1億3000万人に達したと述べたのだ。宗教弾圧下の共産中国において、キリスト教2000年の歴史で最速の信徒拡大が記録されたのである。
昨年10月のハドソン研究所での演説でペンス副大統領が指弾したように、中国では、十字架が破壊され、聖書が焼かれ、教会が打ち倒されているが、神への信仰は、ますます燃え広がっている。
今日では中国におけるウイグル族の受難については世界が知るところとなったが、悲劇のキリスト教徒の数は、イスラム教徒総数の3倍、5倍と見られるのだ。その数は、ヨーロッパのどの国よりも多い。この数値が知られれば、欧米では、100万人の壮丁が強制収容所に暮らしているウイグル族の法難に涙を流すより、中国における1億3000万人のクリスチャンの明日のために心を痛める者がはるかに多いことだろう。ペンス演説の凄(すご)みが、ここにある。
その上でペンス副大統領は、「現在アメリカは、中国との貿易について話し合いの最中であり、今後も継続するが、北京との話し合いの結果がどうなろうと、アメリカは、常に中華人民共和国で信仰を守ろうとしている人々とともにある」と宣言した。
日本も共に戦う覚悟を
米中貿易協議においては、合意の達成のため、時にアメリカが譲歩するかもしれない。しかし、アメリカの建国の理念である信仰の自由を高く掲げるトランプ政権が、貿易交渉のために信教の自由を犠牲にすることは、決してないだろう。米中新冷戦の対立軸は、「信教の自由を守る国と宗教弾圧をする国との戦い」なのである。
日本もまた、自由と民主主義と基本的人権の尊重、法の支配という理念を掲げて、アメリカと共に世界の宗教弾圧国家との戦いに立ち向かう覚悟を持たなければならない。
(あさの・かずお)