トランプ米政権の1年半

遠藤 哲也日本国際問題研究所特別研究員 遠藤 哲也

自国第一主義の影響大
外交面の新基軸には評価も

 人物評価、業績評価は棺(ひつぎ)を覆ってからと言われるのに、たった1年半であれ、これを言うのは、至難の業である。しかし、トランプ大統領は、超大国米国の最高首脳であり、その一挙手一投足は世界に大きな影響を与えるので、今の段階でも、とりあえず業績を評価し、日本として両国首脳間の良好な関係を活用して物申す必要がある。本稿ではトランプ政権の外交を中心に振り返ってみたい。

 政権誕生の背景は、グローバリゼーションの流れから取り残された、あるいはそのように感じている人々、特に白人中間層、白人労働者の支持と、米国キリスト教の宗派の中で最も勢力の強い、保守的な福音派の支持によるところが大きかった。トランプ大統領としては、今秋11月の中間選挙で勝利を収め、次の大統領選挙につなげていくためには、これらの層の支持を固めていくことが必須で、このための政策を打ち出していかなければならない。

 トランプ氏の人となりについては、もろもろの見方があるが、最大公約数的には次のようになるのではなかろうか。トランプ氏は大統領に就任するまでは政治、外交、軍事など公的な経験が全くなく、不動産業で巨財を成した人物であり、歴代の米国大統領に比べて、極めて異色で、風変わりである。一代の成功者に見られるように、行動力に富み、頭の回転の速い、強引な人物であり、「取引」主義を身上として、自信満々である。

 他方、価値観とか形而上学的なことには関心が薄いようで、演説等でもほとんど触れたことがない。衝動的、独断的で、戦略的思考は得意ではないようだ。言行も首尾一貫せず、これまでにも世界中がどれほど振り回されたことか。

 しかし、人間70歳を過ぎた者の性格、人となりが変わるものではなく、我々としては基本的には、所与のものとして、対応していかざるを得ないだろう。

 トランプ外交の目標は「偉大なアメリカの再現」であり、そのための「米国第一主義」である。国防力(特に核戦力)の強化による力を通じての平和の追求、貿易不均衡是正のための「取引」、二国間主義などがその手段である。

 以下に主要な外交課題について概観し、所見を述べてみたい。

 まず通商面では①米国が主導した環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の修正②二国間貿易協定締結など、二国間主義を重視。日本も対象になっている③戦後、米国がイニシアチブを取って、営々として築き上げてきた国際経済秩序を揺さぶっている。その空白を中国など新興大国が埋めようとしている。

 また安全保障面では①2015年に難交渉の末、ようやくまとまったイラン核合意はガラス細工のようなものであったが、トランプ大統領は今年5月8日、仏、英、独など関係当事国の強い反対にもかかわらず、離脱を表明した②北朝鮮の核・ミサイルは過去30年以上、国際社会を悩まし続けてきた。米国の歴代政権もそれなりに取り組んできたが、結果的に効を奏さず、北朝鮮の能力は格段に強化された。トランプ政権の北朝鮮政策はこれまでにない大胆なもので、それなりに評価できるが、今後の具体的な過程は先送りで、これまでの北朝鮮の態度からして、大いに懸念される③米国の在イスラエル大使館のテルアビブからエルサレムへの移転は、トランプ大統領の親イスラエル志向、強力な支持層である親イスラエル・ロビーやキリスト教福音派への配慮によるものと見られるが、パレスチナ側の強硬な反発で、中東和平交渉・和平仲介者としての米国の立場を大きく傷つけると懸念される④欧州、特に友好国かつ大国の独、英、仏等との関係がしっくりしておらず、新冷戦とも言われる昨今、ロシアに漁夫の利を与えるばかりである⑤国務省職員、国務省予算の大幅削減、在外大使を含め、高級人事の空白は外交の専門機能を弱めるものである。

 さらに地球温暖化対策に後ろ向きになり、その国際的枠組みであるパリ協定からの離脱を表明した。

 これまでのトランプ外交はひいき目に見ても高い評価は得られない。第一に外交には、ある程度の継続性が求められ、二国間であれ、多国間であれ、いったん約束したことは守られるべきで、一方的に破棄したり、離脱したりすべきではない。第二に自国第一主義は主権国家として、ある程度当然であるが、これが度を過ぎると排他主義に陥る。特に米国のような超大国の場合は、その影響が大きい。第三に超大国には、特に言行に首尾一貫が必要で、そうでないと世界は不必要に揺さぶられる。国際的信用の問題である。第四に、外交は内政の延長であると言われるが、トランプ大統領は内向きの配慮が強過ぎるように思われる。

 ただ、トランプ政権は過去のしがらみにとらわれず、外交に新しい基軸を打ち出していること自体は評価できるが、中東問題にしろ、北朝鮮問題にせよ、これからが正念場である。少なくとも、あと2年半は付き合っていかざるを得ないのだから、日本としては両首脳間の緊密な関係を維持し、米国が国際秩序の守護神を続けるよう、また米国外交が国際協調を基軸に置くよう、フレンドリー・アドバイスを与えていくことが必要である。

(えんどう・てつや)