韓国は「文在寅王国」に?

 先週、韓国で実施された統一地方選挙で与党の共に民主党が圧勝した。4月の南北首脳会談や直前の米朝首脳会談の「融和」ムードを歓迎する世論がそのまま政府・与党への圧倒的な支持につながった形だ。野党の保守陣営は壊滅状態に追い込まれ、韓国は事実上の「文在寅王国」を完成させたと言っても過言ではなさそうだ。
(ソウル・上田勇実)

地方選で与党圧勝、米朝会談追い風
保守壊滅で反トランプ感情も

 13日実施の第7回全国同時地方選挙の結果、ソウル市をはじめ17主要自治体長は無所属が当選した済州道を除く16カ所のうち与党が14カ所で勝利した。

秋美愛氏

 与党はソウル首都圏をはじめ地盤の南西部・全羅道、各種選挙でキャスチング・ボートを握ってきた中部の忠清道などで軒並み当選を果たすなど圧倒的な強さを見せた。一方、第1野党の自由韓国党は地盤である南東部・慶尚道で苦戦。釜山市と慶尚南道で落選するという緊急事態となった。

 同時にほぼ全国各地で実施され、「ミニ総選挙」と称された国会議員補選でも12選挙区のうち与党が11勝。この結果、与党は国会議席を119から130に伸ばし、革新系勢力は過半数の156議席に達することが確実となった。

 今回の与党圧勝は南北・米朝首脳会談での文在寅政権の外交「成果」が影響を及ぼしたとみられる。核・ミサイルの脅威にさらされていた韓国が会談をきっかけに突如、「平和」の雰囲気に包まれ、両会談実現に果たした文政権の役割を世論が評価していたからだ。

 また就任から1年を経過し、各種の経済指標が悪化する中、「首脳会談への期待感が経済失政を覆ってしまった」(韓国メディア)という分析もある。

洪準杓氏

14日、地方選惨敗で辞意を表明した後、党本部を後にする第1野党・自由韓国党の洪準杓代表=韓国紙セゲイルボ提供

 文政権は保守政権時代の不正・腐敗を「積弊」と称し、その清算を国政の最優先課題に掲げて保守陣営を徹底的に叩き、気勢を制していたことも大きかった。

 国政介入事件を招いた朴槿恵前大統領の弾劾・罷免・起訴や収賄疑惑で李明博元大統領が逮捕・起訴される歴代保守系大統領の没落場面が相次ぎ、これを保守系メディアは「政治報復」と批判したが、逆に「保守=積弊」という構図の中でそうした主張は浸透していかなかった。

 保守没落で象徴的だったのは朴槿恵前大統領の父、朴正煕元大統領の出生地で保守の牙城と言われる南東部・亀尾市の市長に与党候補が当選したことだ。同市で革新系市長が誕生するのは初めてだ。

 今回の与党圧勝で文政権の国政運営に弾みがつく形になった一方、保守系野党は相次ぎ党首が辞任した。自由韓国党の議員らは国会内で「私が間違っていました」と記した横断幕を掲げて土下座したが、国民の支持をどう得られるか道筋は見えていない。

 米朝会談が、北朝鮮の非核化が曖昧にされた形で終わったにもかかわらず、韓国世論が対話ムードを評価し、今回の地方選で与党に追い風となったことに「もう韓国保守は反トランプ運動を起こすしかない」と憤慨する保守系論客もいる。

 選挙では地方教育行政のトップである教育監も選ばれたが、17主要自治体の教育監のうち14カ所で、親北反米の偏向理念を現場に刷り込んできたことで知られる全国教職員労働組合(全教組)の教育方針に好意的な人物が当選した。

 全教組は保守政権下で非合法組織に転落したが、「息のかかった」教育監が大挙して当選したことで息を吹き返した格好。学力アップより平等教育、北朝鮮脅威論より南北融和論を重視する教育が現場で強化されるのは必至となった。