失われた競争力を取り戻す ダニエル・トワイニング氏
米国際共和研究所所長 ダニエル・トワイニング氏
トランプ米大統領の対外政策の柱は。

ダニエル・トワイニング氏 英オックスフォード大で修士号・博士号を取得。米国務省政策企画局スタッフ、ジョン・マケイン上院議員の外交政策顧問、米国ジャーマン・マーシャル基金(GMF)アジア部長などを経て、昨年9月に民主主義の拡大に取り組む国際共和研究所(IRI)所長に就任。
米国の強さの一つは競争力だ。トランプ氏は、過去8年間で米国の競争力が失われたと感じており、それを取り戻しそうとしている。その焦点は軍事力だけでなく、金融危機後、活気のなかった経済の再生にも置かれている。
もう一つの柱は、不公平な貿易関係を終わらせることだ。これは特に中国に対してだ。トランプ政権は政府の文書で、中国は略奪的、重商主義的な経済政策を追求していると指摘している。トランプ氏を当選させた米国内のバックラッシュ(反動)は、経済関係への不公平感と結び付いている。
「米国第一」は、孤立主義と受け止められることが多い。
孤立主義ではない。そう聞こえてしまうのは理解できるが、米国が今、世界で行っていることを見れば、米国は中東地域を含めほとんどの分野で関与を強めていることが分かる。
オバマ政権時代は米国の後退、退却が鮮明だった。イラクから撤退し、中国が南シナ海の広範囲を支配するのを許し、ロシアによるウクライナ侵攻も見ているだけだった。トランプ氏は、このような戦略は終わりだと言うだろう。
トランプ政権の国家安全保障戦略は「大国間競争が復活した」と強調している。
健全な世界観だ。米国は冷戦に勝利した後、戦略的に怠惰だった。ロシアは一段と軍事大国になり、中国は台頭する超大国になった。イランは中東全域で軍事的介入を進めている。トランプ政権の国家安全保障戦略は、米国の競合国が大きなアドバンテージを獲得した状況に対抗しようとするものだ。
トランプ氏は、民主主義や自由、人権など米国の価値観を促進することに関心が薄いように見える。
民主主義、自由、人権に対する最大の脅威は、独裁的大国とテロリズムからやって来る。独裁的大国とは具体的に中国、ロシア、イランのことだ。トランプ政権は独裁的大国とテロがもたらす課題への取り組みを最優先課題に位置付けている。
トランプ政権は民主主義のリーダーの役割を放棄していないということか。
そうだ。国家安全保障戦略には個人の自由や米国が重視する価値観への言及に溢(あふ)れている。これはホワイトハウスの公式戦略だ。
トランプ政権の国家安全保障戦略は「過去数十年間、中国の台頭を支援すれば、中国は自由化すると信じてきた。われわれの希望とは裏腹に、中国は他国の主権を犠牲にして拡張した」と主張し、対中政策の転換を示唆した。
中国は5年前、10年前、15年前とは異なる発展段階にある。われわれの前提も変わったのだ。中国はアジアにおける米国の影響力を縮小し、自分たちの勢力圏の拡大に極めて積極的だ。
米国と中国は北朝鮮問題、パキスタンの安定、世界経済など多くの分野で協力でき、ゼロサムの関係ではない。だが、米国が中国について10年前よりも明確な視野を持つようになったことを歓迎したい。
トランプ政権の対中政策は強硬路線に向かうか。
既にそうなっている。
(聞き手=編集委員・早川俊行)





