超国家機構から主権を防衛 ジョン・フォンテ氏

「米国第一」を問う トランプを動かす世界観(2)

米ハドソン研究所上級研究員 ジョン・フォンテ氏(下)

トランプ米大統領は「国家主権」の重要性を強調することが多い。なぜ今、国家主権なのか。

ジョン・フォンテ氏

 主権とは、物事を決定するのは誰か、ということだ。トランプ氏が国連演説をはじめ多くの演説で述べているように、合衆国憲法は「ウィー・ザ・ピープル」という三つの単語で始まる。つまり主権は米国民の手にあるということだ。主権者たる国民の同意によって物事は決定される。

 オバマ前大統領やヒラリー・クリントン元国務長官は、国家主権に重きを置いていなかった。彼らが重きを置いていたのは、国際機構、多国間機構だった。国際機構が物事を決定することは、主権が国家から国際機構に移譲されるということだ。

 例えば、国際刑事裁判所(ICC)は、国家の上位にある独立した法廷で、米国民の同意無しに米兵を戦争犯罪で裁く権限を主張している。国民の同意無く物事を決定するのは、北朝鮮やイランなど独裁国家と同じだ。

 トランプ氏は、国際政治の枠組みは国際機構ではなく国民国家が中心であることを理解している。国家は他国と協力する一方で競争もする。米国にとって日本のような協力的な国家もあれば、中国やロシアのような競合国も存在する。それが世界の現実だ。

 トランプ氏は現実主義者であり、世界をありのまま見ている。世界はこうあるべきだというようには見ていない。オバマ氏はそうではなかった。主権の重要性を認識していなかった。

 グローバリズムの問題点は、国際機構が国家の同意無しに権限を主張していることだ。政策を決めるのは国家であるべきだ。国際機構によって政策が国家の外側で決められるべきではない。国家や主権よりも上位に立つ超国家機構は、民主主義、自由、そして同意に基づく政府の在り方にとって大きな問題だ。

トランプ氏が掲げる「米国第一」は、国家主権を弱めようとするグローバリスト勢力から米国の主権を守るという側面もあるのか。

 そうだ。グローバリストたちの目標は、国際機構が物事を決める単一のグローバルシステムをつくることだ。彼らはこれを「世界政府」ではなく「グローバル・ガバナンス」と呼んでいる。このシステムの下では、国家は存在するが、その力は弱まり、従属的になる。いわばグローバル・エンパイア(帝国)だ。

 トランプ氏が大統領に選ばれたことと、英国が国民投票でEU離脱を決めた「ブレグジット」は、物事を決定するのは自分たちだ、グローバリストたちに決めさせたくない、という表れだ。アメリカ・ファーストはグローバル・ガバナンスへの抵抗だ。

米国第一は孤立主義と受け止められることが多い。

 アメリカ・ファーストは、決して「アメリカ・アローン(米国単独)」を意味しない。意味するのは「強い米国」であり、日本や韓国、英国などの同盟国と連携することでより強い米国になることができる。

 国家は国民に対して責任を負う。トランプ氏は米国民に選ばれたのだから、米国民に対して責任を負う。アメリカ・ファーストは、国家のあるべき行動原理を認めたにすぎない。

 米国だけでなく他の国々も自国の利益を第一に考え、強い独立国家を目指すのは自然なことだ。日本が「日本第一」を掲げたとしても、それは自然なことだ。

(聞き手=編集委員・早川俊行)