同盟国に平等な負担求める ヘンリー・ナウ氏
米ジョージ・ワシントン大学教授 ヘンリー・ナウ氏(上)
トランプ米大統領の「米国第一」は、日本を含む同盟国に大きな衝撃を与えた。

ヘンリー・ナウ氏 米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号・博士号を取得。レーガン政権で国家安全保障会議(NSC)国際経済上級部長。「日米韓議員交流プログラム」を主宰してきた功績で2016年に旭日中綬章を受章。
第2次世界大戦後に米国が築いた民主主義諸国との同盟を来世紀に向けて維持させるには、同盟国側がより平等な貢献をしなければならない。米国が防衛と貿易で過去75年間負ってきた負担を今後75年間も負うことは不可能だ。トランプ氏が欧州諸国に防衛への負担拡大を求めたように、米国第一は「われわれは同盟の中で今までより積極的に自国の利益を守り、同盟国への要求を強めていく」という声明だ。
ただ、これは同盟を必要としないという意味ではない。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)やアジアの同盟関係の強化に取り組み、安倍首相とは素晴らしい関係を築いている。
トランプ氏の大統領就任直前にオバマ前政権が実施したロシア国境沿いへの米軍配備を、トランプ氏は承認した。これは冷戦終結後、初めてのことであり、(集団防衛を定めた)NATO条約第5条へのコミットメントを確認する極めて重要なステップだ。
トランプ政権の国家防衛戦略は、中国とロシアを「戦略的競合国」と位置付けた。
トランプ氏は中国、ロシアとの関係を競争的と表現しているが、これは競争と協力を両方進めることを意味する。
ロシアに対しては、国境沿いへの米軍配備に続き、昨年12月にウクライナへの殺傷兵器の供与を承認した。その中には対戦車兵器も含まれる。これはプーチン大統領に対する「ウクライナの領土をこれ以上奪おうとするな。さもなければ大きな損害を被ることになる」というメッセージだ。
その一方で、トランプ氏はシリアでロシアと協力しようとしている。トランプ氏は中東地域に米軍を送ることに極めて消極的だ。ロシアと取引して、シリア情勢を管理し、イランの影響力拡大を抑えようとしている。
来年にはウクライナでも米露の合意が見られるかもしれない。トランプ氏はウクライナに兵器を供与し、さらなる侵攻には高い代償が伴うことをロシアに理解させることで、交渉のテーブルに着かせようとしている。力でロシアの取り組みを妨害し、合意を得ようとするトランプ氏のアプローチは、「武力外交」と呼ばれるものだ。
中国に対しても、トランプ氏は相違がある一方で、共通の利益があることを理解している。北朝鮮の核開発を中国の協力で阻止しようとしており、少なくともオバマ政権時代よりは協力を引き出している。その一方で、南シナ海では1月に海軍艦艇を(中国とフィリピンが領有権を争う)スカボロー礁の12カイリ内に派遣し、この地域における米国の利益を主張した。
通商政策では保護主義色が濃い。
米国が第2次世界大戦後、同盟国の復興のために多くの譲歩をし、豊かになるのを支援してきた。トランプ氏は、そのような時代は終わり、米国は今、自国の利益を追求していく必要があるとして、過去50年間の帰結を是正しようとしている。私はトランプ氏が新たな貿易交渉を要求することは極めて適切なことだと考える。
ただ、トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)のような新たな貿易協定には関心がない。北米自由貿易協定(NAFTA)など既存の協定を修正しようとしている。
(聞き手=編集委員・早川俊行)





