米中露の均衡で安定の時代に アーサー・ハーマン氏

「米国第一」を問う トランプを動かす世界観(7)

米ハドソン研究所上級研究員 アーサー・ハーマン氏(下)

トランプ米大統領は米軍再建と経済再生に力を入れている。

アーサー・ハーマン氏

 トランプ氏は、第2次世界大戦や冷戦で世界を救ったのは米国の理想主義ではなく、米国の軍事力、経済力であることを理解している。米国はどうしたら世界でより尊敬されるか。どうしたら世界をより安全にできるか。それは国連決議や海外援助、ソフトパワーによってではない。米国の軍事力、経済的影響力によってだ。

トランプ氏もオバマ氏と同様、「世界の警察官」の役割を放棄しているように見えるが、2人の違いは。

 オバマ氏は、傲慢な米国が世界を混乱させていると見ていた。従って、オバマ氏にとって、より平和な国際秩序に貢献する方法は、米国が自らそのプレゼンス、影響力を低下させることだった。トランプ氏は孤立主義者と評されることが多いが、オバマ氏こそ真の孤立主義者だ。

 オバマ氏の対外姿勢を象徴する表現が二つある。一つは「戦略的忍耐」だ。これは基本的に傍観し、関与しないことを意味する。もう一つは「背後からの主導」だ。これも米国の国益が関わる争いに対して消極的、無干渉の態度を取ることへの言い訳だった。

トランプ政権が重視する米国、中国、ロシアによる「大国間競争」は、世界にどのような変化をもたらすか。

 これは世界が三つの勢力圏に分断されるということではない。私が予想するのは、大国が各々、自国の利益を主張し、それに対して他の大国がバランスを取るという世界構造だ。各大国は同盟システムや経済関係の構築などによって自国の利益を守る一方、他の大国の利益を過度に侵害するのを避けることで、一種の均衡の孤が生まれる。

 ナポレオン後の欧州では、このような均衡が生まれた。各国が他国の国家主権を尊重するようになったからだ。他国への尊重は相互でなければならない。尊重が相互でない時、例えば、中国が海洋で主権を拡大しようとしているような時は対抗しなければならない。

 米中露の「ビッグスリー」は、核大国でもある。軍事衝突が核戦争へと発展する事態は避けなければならず、この三つの大国はバランスを取りつつ、他の大国の利益をその同盟国も含めて尊重せざるを得ない。

 このことは19世紀の欧州以来、見られなかった安定の時代をもたらすだろう。確実ではないが、その可能性は極めて高い。

中国は米国に代わる超大国になる野心を持っている。大国間競争は本当に安定をもたらすか。

 オバマ前政権の8年間に、中国が南シナ海や東シナ海で安定を脅かす行動を取ったのは、米国が競争や対立を恐れ、自国と同盟国の利益のために行動するのをためらったからだ。これに対し、トランプ氏は、競争は自然であり、対立は不可避なものと見ている。誰かが進むべきではない方向に進んだ時は、押し返さなければならない。

 過去2世紀のアジアの歴史は、常に中国の問題が中核だった。19世紀から第2次世界大戦までは中国の衰退が、戦後は中国の台頭がそれぞれ不安定要因になっている。アジアの平和と繁栄をめぐる問題はすべて、中国を中心に展開する。中国の台頭をどう安定の源にするか。それはカウンターバランス、力の均衡によってだ。その中で、日本は決定的に重要な歴史的役割を持っている。

(聞き手=編集委員・早川俊行)

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