今も世界の基礎は国民国家 ヘンリー・ナウ氏
米ジョージ・ワシントン大学教授 ヘンリー・ナウ氏(下)
トランプ米大統領の「米国第一」は、日本を含む同盟国に大きな衝撃を与えた。
国家主権が国際社会の基盤だからだ。国民は欧州連合(EU)や世界貿易機関(WTO)に帰属する前に国家に帰属する。われわれが生きる世界は依然、国民国家が基礎であることを認識しなければならない。
グローバル・エリートや大企業は過去数十年間、やりたい放題でグローバル化を進め、国家主権を弱めてきた。トランプ氏が今、国家主権に焦点を当てることは、こうした状況を是正する上で好ましいことだ。
トランプ氏は既存のグローバリゼーションを弱めようとしているわけではない。もしそれを目指しているなら、グローバル・エリートの培養地であるダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)には行っていない。トランプ氏がダボスに行ったのは、グローバル・エリートたちに対し、もっと国民の思いに関心を寄せ、各国にグローバル化を吸収する時間的余裕を与える必要があるというメッセージを送るためだ。
トランプ氏は国民国家、国家主権、ナショナリズムこそが、豊かで安全な国際社会の土台であると信じている。
ナショナリズムはグローバリズムと相反するのでは。
民主主義はこの75年間で劇的に拡大した。主要先進国はすべて自由民主主義国であり、平和的に共存している。今日の世界で明らかなのは、(民主国家同士は紛争を避けるという)「民主的平和」のビジョンだ。
つまり、主要先進国を結び付けているのは国際機構ではなく、自由民主主義という共通の政治的価値観ということだ。自由民主主義の原則に立脚する時、ナショナリズムはグローバリズムと両立できる。
トランプ氏はどのような世界観に基づき国際社会に関与しているのか。
トランプ氏は小さな政府を望むように、国際的にも小さな政府を望む。規制についても、国内だけでなく国際的なレベルでも極めて否定的だ。従って、国連やWTOをこれ以上を大きくする必要もなければ、気候変動をめぐる新たな国際的枠組みも必要ない。
民主的で自立した国家は協力し合い、自分たちで機能的な世界を築くことができる。国際機構を設けなくても、われわれは多くのことができるというのがトランプ氏の考えだ。これは極めて保守的なビジョンであり、「保守的国際主義」だ。
トランプ氏はイデオロギー色が薄く、民主主義や自由、人権といった米国の価値観を促進することに関心が薄いように見える。
トランプ氏は自由民主主義の価値観の重要性を理解している。だが、それを世界に拡大し、サウジアラビアやシリアなどを民主国家に変えようとは思っていない。他の国々が民主化の方向に進むことを望んでも、米国のシステムを押し付けることはしない。
トランプ政権の戦略は民主主義の防衛を強く主張しているが、ブッシュ元政権の戦略のように民主主義の拡大は主張していない。つまり、トランプ氏は民主主義のサポーターだが、伝道師ではない。軍事介入が求められる「十字軍」にはなる必要がないと考えている。
(聞き手=編集委員・早川俊行)






