韓国保守派、特使団報告は「詐欺」と批判
北の真意ぼかし真相封印
南北・米朝首脳会談の開催合意で朝鮮半島情勢が大きく揺れ動く中、韓国では保守派の論客たちが北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と米国のトランプ大統領の間を仲介した文在寅政権の特使団による報告を「詐欺」「時代錯誤」などと痛烈に批判している。北朝鮮はもとより文政権の真意にも疑いの目が向けられている。
(ソウル・上田勇実)
「歴史の教訓」学ばぬ文政権
1970年代から80年代初めにかけ南北当局者会談への参加経験が豊富な李東馥・元国会議員は保守系サイトに寄稿したコラムで、今回の韓国特使団による韓国での訪朝報告と訪米時のトランプ大統領への訪朝報告は北朝鮮側の真意を正確に伝えておらず、真相を封印して後に混乱を招く余地があると指摘。それはあたかも16世紀末の中国明代の使節、沈惟敬が繰り返した「詐欺を彷彿とさせる」と述べた。
沈惟敬は文禄の役で小西行長と嘘の50日停戦協定を結び、その罠(わな)にはまった行長が明の大軍に包囲され敗退を余儀なくされたり、その後も日本と明の和平交渉で勝手に豊臣秀吉の「降伏文書」を作成し、それが秀吉の逆鱗(げきりん)に触れて朝鮮再出兵(慶長の役)を招くなど、「詐欺外交」でアジアを混乱に陥れた張本人として歴史に名を残している。日明両国を欺いたかどで最期は死罪となった。
李氏は金委員長が指す「非核化」と「対話中の核・ミサイル発射実験中断」などについて特使団が北朝鮮の真意をぼかしたまま報告したと指摘している。
「非核化」は北朝鮮ではなく朝鮮半島全体の「非核地帯化」を意味し、韓国を守る米国の核の傘と同等に扱うよう求める可能性が高く、結局は国際社会が促す北朝鮮の核放棄にはつながらない。「核・ミサイル発射実験中断」は「核・在来兵器を韓国に向け使用しない」という約束とともに結果的に「北の核保有」を認めることになるのにその危険性には触れず、逆に「平和のメッセージ」として宣伝している、というわけだ。
こうした報告はトランプ大統領の心を見事に射止めたようで、トランプ氏は10日の集会で「金委員長はミサイルを発射しないと述べた。多くのミサイルが上空を飛び越えた日本は私の仕事を喜んでいる」と無邪気に語った。
だが、李氏はこう警告する。あたかも「沈惟敬による詐欺外交の軌跡をたどる文政権の特使外交は首脳会談の“流産”だけは避けようと北にも米にもいい話しかしないだろうが、遠からず化けの皮が剥がれ、難破する公算が強い」。その後に待っているのは「米国による単独軍事行動」かもしれない。
一方、知日派で保守系大手紙・朝鮮日報の鮮干鉦・社会部長は看板コラムで、同じく16世紀の李氏朝鮮の文官、金誠一が秀吉による朝鮮出兵の可能性に懐疑的な報告をした当時の失敗が現在の特使団の姿と重なると指摘した。
朝鮮通信使の副使として来日した金誠一は帰国後に日本の襲来はないと報告し、当時、属していた平和路線の派閥が力を得たことによりその報告が採用され、王も平和主義者だったため結果的に情勢を見誤った。
鮮干氏は、この史実が北朝鮮による核・ミサイル攻撃はないだろうという楽観的予測に基づいて報告し、それが対北融和路線の文大統領と政府・与党に大歓迎されている今の状況とそっくりだと見ている。特使団の報告は「金副使の報告と同じくらい歴史的に重要」であるにもかかわらず、その結果は「金副使の平和論より時代錯誤的だ」と評価は手厳しい。
「沈惟敬式」にしろ「金誠一式」にしろここまで文政権がこぎ着けた南北・米朝首脳会談の開催合意は、韓国保守派が指摘するように北朝鮮の非核化への意志が確認されないまま見切り発車的になされたものだ。文政権は「歴史の教訓」に学ばず、国際社会による制裁を緩和させ核・ミサイル開発の時間を稼ごうという北朝鮮の思惑が実現するように手を貸す“共犯”となるかもしれない。






