公約守らぬバイデン米政権

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

低いままの連邦最低賃金
学生ローン返済免除も進まず

ロバート・D・エルドリッヂ

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士
ロバート・D・エルドリッヂ

 政権が誕生してから100日目の直前となる4月28日、ジョー・バイデン米大統領は米議会で両院に対して初演説を行った。1時間余りのスピーチは国内問題が中心であって、多くの政策や要望を、彼の民主党がコントロールする上院や下院に伝えた。

 声が小さかったものの、失言などのミスが比較的に少なかったので、スタッフや周りはほっとしていたに違いない。

 民主党は大統領のスピーチを高く評価した。それは同じ党出身だから当然だ。しかし、意外なのは、同党の左派がスピーチだけではなく、今までのバイデン政権を「期待した以上なもの」だとまで言っていることだ。基準がそもそも低かったのか、それとも運営は期待していた以上にうまくいっているのか、どの意味でそう述べているのかは不明だが、明らかにそれは党派的な評価だ。

対コロナ支援金は減額

 演説に対して共和党は批判的だ。慣習として大統領のスピーチに対して、野党は反論を行う。今回はサウスカロライナ州選出で共和党のティム・スコット上院議員が15分の反駁(はんばく)の演説を展開した。「国民は中身のない決まり文句はいらない。政策と進歩がほしい」と指摘。さらに、バイデン政権は「アイデンティティー・ポリティクス」に依存し、民主党は法案の審議と成立を邪魔している、との批判をしているが、パンチが弱かった。

 バイデン氏が言っていたことは悪くないが、本当にやるか見通せないというのが、バイデン氏を支持してこなかった筆者の正直な感想だ。

 政権を評価する場合、まず選挙の公約を守っているかどうかが一つの大事な、しかも客観的な基準だ。なぜなら公約は有権者との間の一種の契約だからだ。残念ながら大統領選の時、バイデン候補が公約したことはこれまで一切守られていない。

 まず、連邦最低賃金の引き上げ問題。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権の 2009年以来、時給7・25㌦から上がっていないが、実際の生活には最低24㌦が必要だという計算になっている。会社の利益や幹部の収入は年々に上がっているが、従業員の最低賃金は依然として低く、複数の仕事を持たないと生活できない。

 二つ目は、以前に紹介したコロナの支援対策としての2000㌦(約22万円)の小切手。これが1400㌦(約15万円)に突然下がり、しかも1月上旬にもらえるといわれたが、いまだに届いていない家庭が多い。

 三つ目は学生ローン返済の免除。現在、国民が1・7兆㌦(約185兆円)の学生ローンを抱えているが、若者が家を買えないなど大きな経済的打撃になっている。1万㌦(約109万円)まで免除の公約があったが、まだ具体的な政策がない。

 四つ目は、警察の暴力が引き金となった昨年の暴動の後、警察の改革を公約で呼び掛けたが、改革どころか予算を増加した。移民政策は依然として混乱しており、選挙で批判した米国とメキシコの国境にある「トランプの壁」の設置を継承している。

 五つ目は、医療保険をめぐる諸制度を改良するという公約があったが、国民が望んでいる「国民保険」ではなく、保険会社が儲(もう)かる制度にお金を費やしてしまっている。

 それと関連しているが、公約である処方薬の価格の引き下げはまだされていない。これは大きな問題だ。多くの税金が研究・開発のために使われているが、医薬品会社がその特許を取ると、今度は納税者である患者に高額で処方薬を販売している。国民は二重の負担を負わされている。

 福祉や教育のために使うお金がないとよく言われるが、予算は十分にある。使い方が間違っており、優先順位が間違っているだけだ。

法案可決への本気欠く

 バイデン氏や民主党は、口で「〇〇公約」や「〇〇政策」を支持すると言葉巧みに言うが、実際には実現に向けて進展がないことが多い。その理由は、本気でやろうとしていないからだ。背後に医薬品会社など献金者たちがいて身動きが取れない。

 そこで民主党は、国民のための「〇〇法案」を可決できない場合は、自分たちが本気ではないのではなく、共和党が悪いと責任転嫁をするだろう。

 結局、和解を訴えたバイデン政権がこのやり方を続けるのならば、再びアメリカの分断を招くことになろう。