大統領選後の米政界再編を占う

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

民主「極左」が新党結成へ
共和・民主両党の中道は合流か

ロバート・D・エルドリッヂ

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士
ロバート・D・エルドリッヂ

 以前に当欄で書いたように、2016年の米大統領選の予備選の時から不正を繰り返した民主党全国委員会は、今回も予備選や本選挙で不正を犯さなければ同党の幹部(およびその協力者たち)が望む候補が勝てないと知っている上で不公平な選挙を展開した。悪名高いヒラリー・クリントンや失言の多いジョー・バイデンはそれほどまでに人気がなかった。

 4年前の大統領選挙で、ドナルド・トランプが当選したことはメディアをはじめ、評論家や外国政府まで驚いたのは周知の通りだ。ところが、トランプ勝利を預言した筆者からすると、彼らがいかにアメリカ社会の現実を理解せず、選挙の本質を分かっていなかったかを物語っていた。

冷静さを失った米国民

 有権者は、エスタブリッシュメントに対して怒りを持ち、それをぶち壊したいアウトサイダーのトランプを支持していた。少なくとも、最もインサイダーで政治ダイナスティー(王朝)を築こうとするヒラリーに断固「ノー」を突き付けた。

 今回、トランプは、4年前に負け、リベンジを果たしたいエスタブリッシュメントと戦うだけでなく、ほとんどのメディアをはじめ、それと親密な関係のある民主党、IT企業などと敵対していた。さらに、世論が扇動・洗脳され、トランプ政権について公平な評価ができない状況になっていた。

 冷静さを失った国民の多くは「トランプ攪乱(かくらん)症候群」と診断された。つまり、トランプの名前を聞くだけで知的誠実性が失われ、正しい判断ができなくなる。筆者の知り合いや親戚にもこうした“患者”がおり、気の毒に思っている。

 ただ、いくらトランプを嫌っても、彼はアメリカの政治と社会の諸問題の現れにすぎず、問題の本質ではない。だが、多くの国民はその違いを理解せず、改革しようとしない民主党のトランプ批判をうのみにしてしまった。

 バイデンに投票した有権者のうち、58%は候補者を支持しているからではなく、「トランプに反対しているからだ」という調査結果が出ている。36%しか候補者を支持していない。なお、バイデンは現時点では、制度上、正式に勝ったとはなっておらず、筆者は勝利したとみていない。

 民主党の改革が必要と長年訴えてきた党員の多くは、党の改善につながらないこの戦術に大変失望している。

 実は、「極左」といわれているこうした勢力は、以前から新しい政党をつくろうとしている。今年の夏、大会をリモートで開催し、多くが参加した。

 既存の2大政党に飽きている国民も少なくなく、特に人口が多い若年層は、新党結成への関心が高いため、筆者は、今後アメリカで大きな政界再編が起きるとみている。さらに、トランプ降ろしが主な目的で、その後の政策がないバイデンへの不満は就任式(勝利が認められた場合)の後、急速に高まることは避けられない。

 まず、この新しい政党結成に向けて、民主党に対する不満があり、離党した関係者が中心になって、緑の党をはじめ民主社会主義者、その他のグループに呼び掛ける。実際、これは既に始まっており、「人民党」との仮称の下で進められている。22年の中間選挙では多くの候補者を出せる体制になると予想される。思想的には左翼であるが、国際社会に関心があるため、「インターナショナリスト」と私は呼んでいる。

 そして、「極左」勢力を失い、中道で企業とのつながりが強い民主党は、バイデンを支持した共和党系の中道派と連携して、新しい民主党をつくる。民主党は平和な党のイメージがあるが、それはとんでもない誤解だ。好戦的であるため、「介入主義者」と呼ぶのが適当だ。

保守派は自由党と連携

 最後は、中道派を失った共和党。本来の保守の価値観に戻れば、自由党との連携は可能になる。このグループは、新しい戦争をすることを避け、ブッシュやオバマ両政権の間で拡大していた戦争や紛争から米軍を撤退させようとしたトランプを支持している。どちらかといえば、「孤立主義者」である。

 三つの政党に再編されれば、政策の違いが鮮明になり、競争原理がアメリカの政治で働くようになる。国民が目を覚ますことで、このような動きが実現するとすれば、それは今回の選挙がもたらした唯一の好材料と言える。(敬称略)