大統領選が鮮明にした米国の二極化

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

人種・教育レベルに相違点
経済状況や職業が対立要因に

加瀬 みき

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

 2020年米大統領選挙の一番の驚きは、その接戦ぶりだった。選挙直前には共和党幹部ですら恐れた民主党の「青い波」は訪れず、トランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領のがっぷり四つに組んだ戦いを応援する二つの異なったアメリカが浮き彫りになった。

議会選では民主党不振

 得票率も有権者の投票動向もまだ最終結果は出ていないが、総投票数が1億5千万票以上で、得票数の差はわずか600万票以下になりそうである。民主党は大きく議席を伸ばした18年の中間選挙の流れを汲(く)んで上院では多数党となり、下院でも票を伸ばす計算だった。しかし、そうはならなかった。下院で議席を減らしたばかりか、上院では共和党が少なくとも50議席を確保している。

 普通、現職大統領に勝利するとそれだけ新任大統領に勢いがあり、それに乗って上下両院でもその党が過半数を制する。ところが、バイデン氏が勝利しても、そうはならない。

 専門家たちを驚かしたのは、これだけの接戦が今のアメリカで起きたことである。ここ一年、アメリカは新型コロナ感染拡大が止まらず、感染者数も死者数も世界1位を続けている。その結果、経済は停滞、失業や企業の破綻が増え、アルコール依存症や麻薬中毒も広まった。またブラック・ライブス・マターをはじめ、さまざまな差別に反対する運動が広まり、それに抗議するグループとの衝突や便乗略奪も続いている。

 事態が必要以上に悪化したのはトランプ大統領の責任、と感じる国民は優に半数を上回る。こうした前代未聞の事態が一つでも起き、政権に責任があると大多数が思えば、政権の責任が問われるのが必然である。しかし選挙結果はそれを表していない。

 このような結果をもたらした支持者にはどのような特徴があるだろう。期日前投票も含めた投票調査では、白人の約6割がトランプ大統領に、非白人の7割がバイデン氏を支持した。白人の中では大卒以上では両候補がほぼ半々に票を得たが、注目すべきは、高卒以下の教育レベルの白人の67%がトランプ大統領に票を投じたことである。また居住区を見るとバイデン氏を支持した投票者の6割が大都市部に、トランプ大統領を選んだ有権者の57%が小さな町や広々とした地方に住んでいる。

 分極がさらにはっきり出たのがそれぞれの候補者が獲得した地区の特徴である。バイデン氏は3141の選挙地区の477で多数票を得たがこれらの地区は全GDP(国内総生産)の7割を占める。一方、トランプ大統領が勝利した2497地区合計のGDP合計はわずか3割である。

 ブルッキングス研究所がこうした数字を踏まえてそれぞれの支持者を描いている。それによればバイデン氏支持者は人種的に多様で、教育レベルが高い傾向があり、デジタル部門を含めた専門職などホワイトカラー職が多く、人口密度の高い地区に住んでいる。一方トランプ氏の支持者は白人、そして教育レベルが高くない人が多く、鉄鋼など伝統的な産業に従事し、小さな町や準郊外といわれる人口密度が低い広々とした土地に住んでいる。

 こうしたトランプ大統領の支持者たちは政治権力者や専門家を信用せず陰謀説を信じる傾向があるのは、闇の権力がトランプ大統領を陥れようとしている、医療専門家の新型コロナ対策を信じない、というところにも表れている。

 共通課題で歩み寄りを

 まるで南北戦争時と言われるほど厳しく対立しているが、両党も支持者を失うことを恐れ、頑(かたく)なな姿勢を貫くようになっている。しかし、実は共有する問題もある。いずれの党も産業基盤やサプライチェーンの立て直しの重要性を認めており、例えば国内半導体生産支援法案は超党派で上下両院を通過した。

 両党ともに全ての国民が大学教育を受けることにこだわるのではなく、他の道を追求する可能性を開く重要性を認めるようになっている。他国の問題解決のためにアメリカが世界の警察官の役を担うのも、ましてや米軍が派遣されることへの抵抗はいずれの党でも強い。

 アメリカの二極化は選挙でさらに固定化した感がある。その中で両党も支持者も衝突しながらも、共感する問題への対策が徐々に互いへの理解をもたらすことを期待したい。

(かせ・みき)