米、TikTok国内使用禁止か

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トランプ政権 中国共産党の情報工作懸念

 中国のバイトダンス社が開発運営する短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」について、米国のトランプ政権が強い警戒感を示している。トランプ大統領は6日、ティックトックやコミュニケーションアプリ「微信(ウィーチャット)」などを運営する中国企業等との取引を禁止する大統領令を出した。米国内での使用を禁止する可能性も示唆する一方、米大手IT企業マイクロソフトが米国を含む複数国での事業を対象に買収に乗り出していると報じられている。中国通信企業の「ファーウェイ」、中国系米国人が創業したウェブ会議システム「ズーム」に続いて、中国系企業・技術の排除が続くが、そもそもトランプ政権はティックトックの何を警戒しているのか。(デジタルメディア編集部・桑原孝仁)

米大統領選にも影響か

字節跳動

動画アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国IT企業、字節跳動(バイトダンス)の本社=7月8日、北京(AFP時事)

 ティックトックはスマートフォン・アプリの一つで、短編動画を主に編集し投稿できる。スマホ一つあれば、「ツイッター」のように簡単に短時間で投稿でき、他者のコンテンツも自由に鑑賞することができる。

 日本国内では、インフルエンサー(社会に影響力のある人々)らが活用し始めた影響もあり、中高生など若者を中心に爆発的に利用が広がった。現在も人気が衰えないことから、企業や地方自治体が、商品広告や観光誘致の可能性を見込んで同アプリと業務提携し、短編動画を活用した宣伝や広報を行っている。

 ティックトックは米国でも人気が高い。特に1990年代半ば以降に生まれた世代「ジェネレーションZ」と呼ばれる若者らの間で広まっている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(7月27日付電子版)によれば、米調査会社センサータワーの調べで、米国内だけで約1億8000万回ダウンロードされたという。

 しかし、米政府は、ティックトックが米国民の情報やプライバシーを大量に収集し中国政府に提供している可能性があるだけでなく、デマの拡散や中国共産党のプロパガンダに利用されているなどとして、厳しい視線を向けている。米軍では早い段階でティックトックの使用を禁止していた。

TikTok(ティックトック)

トランプ米大統領が取引禁止を表明した中国IT企業傘下の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」(右)と対話アプリ「微信(ウィーチャット)」のアイコン(EPA時事)

 ポンペオ国務長官は先月6日、米FOXニュースとのインタビューで、インドは同アプリを禁止し、オーストラリアも同様の措置を検討しており、米国も禁止すべきではないかと問われ、「中国製アプリに関しては、米国もこれを正すと断言できる。検討している」と明らかにした。

 ティックトック側は、情報が中国政府に提供されているという指摘を否定している。最近、CEO(最高経営責任者)にディズニーの幹部を務めていたケビン・メイヤー氏が就任。親会社であるバイトダンスのCOO(最高執行責任者)も兼務することで、透明性確保に努める姿勢を示している。メイヤー氏も先月29日に声明文を発表し、「透明性と説明責任を高める」としている。しかし、米政府の懸念を十分に晴らしているとは言い難い。

 ティックトックのような米国内で人気のあるアプリを禁止することは前例がないが、トランプ大統領は先月29日、ホワイトハウスで記者団を前に「われわれはティックトックを見ている。われわれは決断を下すことを考えている」と語っている。

 一方、大統領選挙に影響を及ぼす可能性を指摘する声もある。先月28日には、トム・コットン、マルコ・ルビオ両氏など複数の上院議員が米政府に、ティックトックが大統領選挙を妨害する可能性について懸念を訴える書簡を送った。

吉村洋文知事

記者団の取材に応じる大阪府の吉村洋文知事=5日午後、同府庁

 そして、トランプ大統領は6日、ティックトックとコミュニケーションアプリの「ウィーチャット」を運営する企業との取引を45日後に禁じる大統領令に著名した。トランプ大統領は大統領令の中で、ティックトックのユーザーの個人情報などは中国共産党のアクセスを許しているとし、政府職員や請負業者の居場所を追跡したり、脅迫するために個人情報の書類を作成したり、企業スパイ活動を行うことを可能にする恐れがあると指摘。「 米国は国家の安全保障を守るために、ティックトックの所有者に対して積極的な行動を取らなければならない」と述べている。

 大統領令を発令する前の4日の時点で、トランプ大統領はマイクロソフトかもしくは他の米国企業との買収交渉が9月15日までに妥結しなければ、ティックトックの利用禁止に踏み切ると断言。また買収交渉の中で米政府が利益を得られるべきだと強調するなど、ここでもトランプ節を発揮している。一方では中国に厳しい姿勢を示すことで、大統領選挙に向けて支持率をアップさせたいという思惑を指摘する声もある。いずれにせよ、トランプ政権が今後もティックトックに対し厳しい姿勢を続けるのは間違いない。