露海軍実験場での爆発の真相
日本対外文化協会理事 中澤 孝之
小型原子炉を開発中か
当局は「核爆発」の疑い否定
ロシア極北アルハンゲリスク州セベルドビンスク近郊ニョノクサ村の海軍実験場で8月8日、新型ミサイル実験に伴うと見られる爆発によって、国営原子力企業ロスアトムの従業員5人と将校2人が死亡するという事故が発生した。事故直後、「核爆発か」との疑いも出た。軍事機密との絡みから爆発事故の原因に関して、さまざまな臆測が飛び交った。セベルドビンスクには原子力潜水艦工場があり、爆発が起きた一帯には、ソ連時代から弾道ミサイルや巡航ミサイルなど海軍の主要なミサイル製造施設が置かれている。
ロスアトムは事故2日後の10日、「推進装置にある放射性同位元素の動力源」に関連して事故が起きたと発表した。その後、同社の報道担当者はタス通信などのメディアに、実験は「海上の施設で行われた。実験完了後、燃料に引火して爆発が起き、何人かの従業員が海に放り出された」と明らかにした。
放射線量が一時急上昇
ロシア国防省は当初、「液体燃料エンジン」の実験中の爆発で、同省将官と関連企業職員の2人が死亡、4人が負傷したと発表した。しかし、近隣地域での一時的な放射線量の上昇に加えて、原子力企業の関わりが判明。ロシアが開発を進める原子力推進式ミサイルの実験中に深刻な事故が発生した可能性が指摘された。
国防省は事故後の放射能レベルについて「正常値」と発表したが、タス通信によると、ロシア気象環境監視局は13日、ニョノクサ村から東方約30㌔のセベルドビンスク市で8日昼に放射線量が一時、最大で自然放射線量の16倍に相当する毎時1・78マイクロシーベルトに達したと発表。上昇は約30分続き、その後、急激に低下したという。地元当局は10日の放射線量は通常通りと発表した。
ロシアの複数のメディアによれば、ニョノクサ村の住民に対して当局は、除染作業が行われている間、一時避難を勧告したと報じたが、のちにこの勧告は取り消されたという。また、タス通信によると、州都アルハンゲリスクの病院に搬送された爆発事故の負傷者3人を治療した医師たちから放射線物質が検出されたことから、医師たちは医療検査を受けるためにモスクワに移送された。これらの医師たちは、連邦保安庁(FSB)から「患者や事故の様態に関して一切口外しないとの秘密保持誓約書」に署名させられたという。
一方、トランプ米大統領は12日のツイッターで、「(爆発事故について)米国はいろいろ分かっている」と強調し、米国も同様のミサイル技術を保有していると明言するとともに、北大西洋条約機構(NATO)がコードネームで「スカイフォール」と呼ぶ原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」の実験の失敗による事故と断定した。
もっとも、12日のロシア紙「独立新聞」によると、ロシアの軍事産業筋は、「ブレベストニク」の原子力エンジン事故との見方を否定した。同筋は、「ブレベストニク」の原子力エンジンの開発実験は既に約半年前に完了し、事故は新技術の開発中に起きたとの見解を示すとともに、「ブレベストニク」の原子力エンジンは固形燃料を使用すると指摘。ロシア国防省も、今回の爆発は液体燃料を使用したエンジンの実験中に起きたと発表していた。液体燃料となる放射性物質を使った熱・電力源、つまり小型原子炉の開発中に起きた事故だった可能性が大きい。
核弾頭の搭載可能な「ブレベストニク」の存在は、プーチン露大統領が2018年3月の年次報告で、米国のミサイル防衛網を突破するために開発中の新型兵器を公表した際に判明した。
燃料の放射性物質飛散
21日までにロシアのメディアが報じたところによると、ロシア軍当局が、事故は核爆発ではなく、ミサイル・エンジンの実験中に起きた爆発で、燃料に使用された放射性物質が周辺に飛散したと地元住民に説明していたという。
(なかざわ・たかゆき)