露、コロナ対策に「機密兵器」総動員

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

全土に対NBC部隊展開
核戦争・細菌戦への備え活用

日本対外文化協会理事-中澤孝之氏

日本対外文化協会理事-中澤孝之氏

 ロシア政府発表(5月27日)によると、ロシアのコロナ感染者累計は37万人を超え、米国、ブラジルに次いで世界第3位の規模だ。累計死者数は約4000人。こうした状況でのパレードの実施には、社会・経済活動の正常化を急ぐプーチン政権の焦りがあるのではないかと見られている。

特殊車両で浄化・洗浄

 ところで、コロナウイルス感染エピデミック(大流行)の中で、軍事大国ロシアならではのエピソードを紹介したい。あるロシアのメディアは、「ロシアは現在の最大の”敵”と戦うため、これまで機密扱いだった兵器を総動員している」との解説記事を配信した。コロナという”敵”に対して使う兵器とは一体どんな「機密兵器」なのだろうか。将来の核戦争や細菌戦に備えてロシアがおさおさ怠りなく準備している実態が垣間見えてくる。

 ロシアには「核・生物・化学兵器防御部隊(対NBC部隊)」がある。この部隊は大量破壊兵器使用後の浄化活動や、前線のロシア軍部隊に影響を及ぼし得るウイルスおよび伝染病の流行に対処するため設立された。

 ロシアは今、全ての対NBC部隊を活用して消毒作業とコロナウイルス感染者の治療に当たらせているという。対NBC部隊の将校らの大半は、実は化学・生物兵器の被害者を処置するように訓練された軍医だからだ。

 また、対NBC部隊とその車両が今、ロシア各地で展開されている。初めに出動したのは、RKHM4(BTR80装甲兵員輸送車をベースに作られた化学偵察車)、DKV1軍用消毒複合体、APKM放水消防車およびARS14KM基地(ステーションズ)であった。これらの車両の一部はチェルノブイリ原発事故での浄化活動で有名になり、今回も大都市や町の通りを浄化・消毒するという同じ任務(チェルノブイリに比べれば軽いが)を遂行している。

 元「イズベスチヤ」紙軍事評論家ドミトリー・サフォーノフ氏は「ARS14KMは戦術と技術的特徴の点で、最新鋭の新世代自動充填基地だと指摘しておきたい。これは兵器や軍の備品、特定の地域、道路のガス抜きや除染、消毒、水や脱ガス溶液、さまざまな容器に入った備品や専用の医療キットの一時保管や輸送に用いられる」と述べた。

 「機密兵器」以外にもロシア製兵器は、ロシア国内だけでなく、イタリアやセルビア、インドなどでもコロナ対策に使われている。とりわけインドでは、交通インフラが未熟な同国北部・北東部の州に、食料品や医薬品が主に中型のMi17V5ヘリコプターによって届けられている。このヘリはインド空軍の輸送ヘリコプターの主力を成し、パキスタンおよび中国との国境地帯に広がる砂漠から高地まで、アクセスが難しい地域で用いられているという。

 非常事態にインド軍はロシア製戦闘機も用いており、例えば、3月末にはインド海軍の海上哨戒機Il(イリューシン)38SDシードラゴンが、大量の医療用使い捨てマスクと医療機器をゴアに届けた。ちなみに、この飛行機はそもそも海上の敵の潜水艦を見つけ出して、深海爆弾で破壊するために開発されたものだが、非常事態の今、同機は平和利用に回され、コロナウイルス感染者を救っている。

超重量級輸送機も出動

 ロシア自慢の世界最大の軍用輸送機もまた、パンデミックとの戦いに参加している。4月上旬には、ロシアの超重量級輸送機An124-100ルスラーンが米国に医療機器を届けた。An225ムリーヤは、中国からヨーロッパへマスクや防護服、フェイスシールドなどの医療用品を定期的に輸送している。ヨーロッパで4月14日に、An225が運んだ医療関係貨物の総量は、1000立方㍍以上に上った。これは1機の航空機が空輸した貨物の量としては最大だという。
(なかざわ・たかゆき)