米アジアシフトの一方で中国が中東で存在感増すと伝える米サイト
米依存脱却図る湾岸
中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」の下、世界への経済進出を進める一方で、軍事的進出のための海軍力強化を進め、原油の供給源であるペルシャ湾岸でも、存在感を増している。米ワシントンを拠点とするニュースサイト「ザ・ディプロマット」は、「米中対立の中の湾岸諸国」として、中国のペルシャ湾への進出ぶりを伝えている。
ペルシャ湾岸の親米アラブ国家、アラブ首長国連邦(UAE)で、中国が軍事目的とみられる施設の建設を進めていたことが明らかになり、米国からの要請を受けて停止していたことが明らかになった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのスクープだが、中国の湾岸への浸透ぶりをうかがわせる出来事だ。
米国は、オバマ政権、トランプ政権を通じて、中東での軍事プレゼンスの縮小を模索してきた。経済的、軍事的に台頭する中国に対抗するために、西太平洋へのシフトが必要となったためだ。原油採掘技術の発展で、国内で原油増産が進み、中東原油への依存度が低下したことも、その一因となっている。
ディプロマットは、湾岸アラブ諸国が、地域の複雑な安全保障環境を乗り切るため「外部のパートナーの支援」に依存し、「冷戦終結後は、米国がその役割を恒久的に担ってくれると考えるようになっていた」と指摘している。
ところが、その「環境」が、米軍のアジアシフトで大きく変わろうとしている。ディプロマットは「依然として米軍は地域内で軍事的優勢を保っているものの、湾岸には、ポスト・アメリカ時代に備えるか、少なくとも、米国だけへの依存から脱却することを迫られている」と指摘。その結果、「他国との関係の構築を模索している」という。中でも中国は、米国との競合国でもあり、進出に意欲的だ。
「5G」も中国が攻勢
中東・北アフリカ(MENA)への関与を強める中国にとってエネルギー源である湾岸は特に重要な地域となっている。さらに、投資、インフラ整備でも歴史的に関係が強い。ディプロマットによると、MENAに進出している中国企業の国別の収益を見ると、2005年以降で、サウジ、UAE、イラン、イラクが、中国の建設、インフラ整備の主要契約先だという。
さらに、「湾岸の港、自由貿易地区は、一帯一路構想にうまく適合し、…湾岸から、アラビア海、紅海、地中海へ中国の事業拠点、サプライチェーン(供給網)を欧州までつなぎ、コストの掛かる海軍拠点を設けることなく欧州市場にアクセスすることにつながっている」と指摘している。
主要産油国であり、地域の大国サウジは、「ビジョン2030」構想の下、経済の原油依存からの脱却を目指しており、中国の一帯一路はサウジにとって都合がいいとディプロマットは指摘する。それはハイテク分野でも同様で、次世代の通信網を担う高速大容量通信規格「5G」で「中国のシステム、ネットワークに組み込まれることで、この分野での米国の支配は弱まる」と懸念を表明している。
ディプロマットは、ハイテク分野での中国の進出を特に懸念、「現時点では、地域への戦力投射の手段はなく、米国への地政学的リスクがあるとは思っていない」と指摘している。
海軍・海兵隊を派遣
だが、中国はすでに、アフリカ東端のジブチに基地を設置し、海軍、海兵隊を派遣している。新型のミサイル駆逐艦、強襲揚陸艦の建造も急ピッチで進めている。最新型の055型駆逐艦は、米国の駆逐艦よりも大きく、遠洋航海能力も備えている。香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストで、軍事専門家の李杰氏は、「先月の中露の共同演習の経験を基に、055型駆逐艦がさらに遠く、地中海、ペルシャ湾など、未踏の海域へと向かうようになるのではないか」と述べている。
欧米諸国が東アジアに注目する中、中国は、南アジア、アフリカ、中東での存在感を増している。アジアシフト一辺倒の中国封じ込めが果たして効果的なのかどうか、検証が必要だろう。
(本田隆文)