濃霧の中の中国「一帯一路」
拓殖大学名誉教授 茅原 郁生
戦略目的はなお不明確
抑制的な姿勢見せた習演説
米中角逐が貿易問題から安全保障や次世代技術の国際規格争いに拡大する中で、去る4月26日に「一帯一路」戦略第2回国際フォーラムが北京で閉幕した。そもそも一帯一路戦略とは何か。一般的に中国が主導する巨大経済圏構想で、2013年に習近平国家主席が提唱した陸路の「シルクロード経済ベルト」と、南シナ海やインド洋を繋(つな)ぐ「21世紀海上シルクロード」の構想を集大成したもので、17年の第19回中国共産党大会(19大)で党規約にも盛り込まれた対外戦略の中核である。
2ルートで欧州と直結
しかし地域的に拡大する「一帯一路」戦略の戦略目的は明確ではない。中国は経済発展に伴い影響圏の拡大をまず太平洋正面に志向したが、米国との軍事的角逐が激化する中で西進に転じ、陸海二つのルートで欧州との直結を図ってきた。その戦略目標は中国の最大貿易相手である欧州連合(EU)と中国経済圏を直結する態勢構築にあるのか、それとも陸海二つの経路建設で経路沿いの途上国のインフラ整備を通じて利益や影響力の拡大を目指すのか、あるいは双方の追求なのか、なお不明である。つまり一帯一路戦略の完成はどのような成功の図式が描かれているのか、依然として濃霧に包まれている。
第1回国際フォーラム(17年)では一帯一路戦略は習近平氏肝いりの文化的影響力も含めた対外戦略の概念的なもので、大まかな方向と目標を示したものとしてスタートした。そこではインフラ建設や覇権への野心など鼻につく派手さが目立っていた。今次フォーラムではこれまでの実績や批判を念頭に、習近平演説では「財政面の持続可能性」や「公平な競走を妨げる不合理な規定や補助金撤廃」など抑制的な姿勢を見せてきた。
実際、これまで一帯一路戦略は沿線国のインフラ整備をテコに「運命共同体」的経済圏の建設を主眼に地域的にはユーラシア大陸、インド洋から南太平洋、アフリカの一部を含む60余カ国・地域に拡大し、世界最長の経済回廊となりつつある。その規模は人口44・6億人(世界全体の63%)で、経済規模は21・9兆㌦(同29%)を占め、中国との交易額は3兆㌦の実績を積んできた。
しかしペンス米副大統領も指摘したように「債務の罠(わな)」で、途上国を過剰債務で苦しませ、現にスリランカのハンバントタ港が債務不履行で99年も経営権を差し押さえられた事例も生じている。これら国際的な「新植民地主義」非難に対して中国は一帯一路「戦略」を一帯一路「構想」と呼び変え中国のイニシアチブにすぎないと沈静化に努め、さらに今次フォーラムでは反論的に投資資金の低金利や事業も鉄道建設などから「環境、医療衛生、教育、雇用」などソフト面に力点を入れている。
同時に注目すべきは、習演説では「排他的な縄張りをつくるものではない」との異例の釈明にもかかわらず、4月の習訪欧時にはイタリアと参加「覚書」を交わし投資を決めていた。これは、これまでの一帯一路戦略が主要7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)に対抗する途上国を対象の構想から、EU連携や欧米先進国の包囲環に楔(くさび)を打ち込む挑戦と見て、欧州委員会も警戒感を高めている。
覇権志向の海軍力増強
さらに中国は4月23日に青島沖で海軍70周年記念行事として国際観艦式を濃霧の中で開催していた。観艦式は空母・遼寧や最新鋭駆逐艦055(米国は巡洋艦と認定)をはじめ大艦隊で示威し、沈金竜海軍司令官は「空母打撃群の作戦能力の構築」と誇示した。式後に訪中した列国の海軍司令官等を前に習主席は「中国の海軍強化は防御的なもの」と強弁したものの、19大で表明された覇権志向の一環で、一帯一路戦略を裏付けるパワーと受け止められ、まさに「衣の下の鎧(よろい)」と見られていた。
米中貿易摩擦が経済を超えて安保・先端科学技術分野に角逐が拡大・激化し、北朝鮮非核化の問題もロシア・北朝鮮首脳会談を経て複雑化する背景を踏まえて、日本は経済の相互依存を強める中国ではあるが、日米同盟の重要性を踏まえて安全保障を見据えた対応が求められてくる。






