中国の空母部隊建設に陰り
搭載機の国産化が難航
知的財産権の特異な解釈限界
中国空母「遼寧」が海軍に引き渡されて6年が経(た)つ。戦闘装備を取り外し、空母機能を取り去ったロシア空母ワリャーグを廃材として購入、長期にわたる検討の結果、空母として再生した経緯は読者ご存じの通りである。中国の長期構想では遼寧は、当初から「訓練艦・実験艦」と位置付け、その後の空母建設、空母運用に係る知識経験を取得するのが目的とされた。
そして、これを背景にまず4隻の国産空母部隊を建設、2020年には第2列島線内の制海権を確保し、さらに40年には米海軍と同等の力を保有し、太平洋を2分し、西太平洋を中国の勢力下に置くとする壮大な海軍拡張計画を誇示してきた。そして、空母打撃群を構成するに必要な、ミサイル巡洋艦・駆逐艦、原子力潜水艦を驚くべきペースで増強しているのである。
また将来母港となる海南島亜龍湾には、米海軍ノーフォーク基地を凌(しの)ぐ世界一の空母係留施設を完成させ、その外砦と言える南シナ海小島嶼(とうしょ)、岩礁に軍事施設を建設、領海宣言を行っているのは衆知の通りである。
ところが、この大計画の中核とも言える空母開発に若干の陰りが見え始めている状況がある。これは肝心の空母搭載機の国産が難航していることが中心であり、特異な知的財産権の解釈からくる「兵器盗作」問題の帰趨(きすう)とも言える重要な要素をはらんでおり、その辺の事情を紹介したい。
遼寧に搭載・運用されているのはJ15戦闘機である。これは、ロシアが空母クズネホフに搭載すべく開発したSU33戦闘機の試験段階(試作7号機)の設計図を知的財産権の無いウクライナから入手し、これを製造したものである。従って露中間で、知的財産権をめぐり激しい争いが存在する。
J15は当初から完成された機体ではないと推察されていた代物である。J15はこの6年間、遼寧で試験的運用を続けているが、性能不十分の噂(うわさ)が絶えない。特に一昨年から昨年にかけて3機を事故で失ったことが公表されている。
また遼寧自体の出港日数も米空母に比べると、極めて少なく、整備等に手間のかかることが推察されている。他方、遼寧に引き続く国産1号空母は、「山東」と命名されたと報ぜられている(台湾紙)が、順調に建造が進んでいるようで、早ければ本年末には海軍に引き渡される予定と言われている。
山東は、遼寧と同様の船体であり、スキージャンプの甲板を持つ純国産1号空母である。さらに国産2号空母の建設も上海江南造船所で始まっていると伝えられており、これは、全長型甲板・カタパルト使用の本格空母との見方が強い。さらに3号艦以降、原子力推進空母の建造も噂されている状況にある。すなわち、艦艇建造、基地建設の分野では、広言通り進んでいると見るのが適切である。
ところが、空母本体の建造に比し、搭載機の準備が遅れているとの観測が報ぜられており、空母部隊建設のネックになりつつあるとして注目を集めている。母船の建造ペースからすると、山東用搭載機はかなりの数量が生産され、陸上母機地(興城基地)でスキージャンプ滑走路を使った訓練が開始されていておかしく無い時期である。ところが興城には、その形跡がない(漢和防務評論)というのである。
何が起きているのか不明で、推察の域を出ないが、各国の報道、技術畑要人の情報漏洩(ろうえい)等から搭載機J15の性能不足が十分に考えられる。中国航空産業の泣き所は、エンジン技術の後進性にある。中国で現用中の戦闘機のエンジンは大別して2種類である。
一つはロシアから正規の契約で導入したAL31型で、イスラエル技術の支援を得て作製したJ10型機、ロシアから購入したSU27SKおよびSU30MKK型機用に機数相当分プラス整備予備台数を保有する。これらは所詮(しょせん)30年前の技術であり、新世代機に転用するのは厳しい選択であろう。
もう一つのカテゴリーは、太行エンジンと称される国産品である。特にSU27用エンジンをコピー生産し「盗作」として悪評高い「WS10」エンジンがその代表である。ところがWS10は性能・信頼性の両面から不十分とされ、「二流品」とされている。前に紹介したが、この事態に対応するため中国は、ロシアから最新エンジンを搭載した「SU35」の導入を決め、昨年より納品が始まっている。もちろん新エンジンのコピー生産は考えられるが、知的財産権のバリアーを高くしたロシア側の策もあり、簡単には技術を反映できる態勢にはないと思われる。
このように、知的財産権を特異に解釈し、コピー兵器を次々と生産してきた中国であるが、最先端技術の面ではつまずきがあり、大きな影響を及ぼし始めているのではないかと推察する。
昨年から世界の耳目を集めた北朝鮮のミサイル開発、そして中国空母いずれも、旧ソ連の兵器製造の中核であったウクライナの独立・政治的混乱に乗じて不法に入手したとされる。これらを契機に、兵器の取引は知的財産権確保の立場が厳しくなっていくのは当然の流れであろう。中国の空母部隊建設、特に搭載機の帰趨に注目していきたい。
(すぎやま・しげる)