世界覇権への野望隠さぬ中国
海外に次々と軍事基地
米の台湾重視路線に過剰反応
覇権国家の中国は着々とその野望に向かって前進しているように見える。ただ残念ながら日本においては民主主義を弱体化そして軽視するような行動に転じる野党の無責任な振る舞いに振り回され、国際的には北朝鮮と韓国の首脳会談が脚光を浴びている。米朝首脳会談についてはいろいろな専門家によりさまざまな形で評価が分かれている。個人的には確固たる成果があったと確信を持てず、どちらかと言えば現段階では高く評価するのは、躊躇(ちゅうちょ)する立場に居る。
日頃から信頼を寄せている先生方にもトランプ米大統領のパフォーマンスを肯定的にご覧になる方々がおられる。恐らくそのような先生方は共同コミュニケや記者会見などを通して私たちが知り得ること以外の情報などをもお持ちだからであろう。それは近いうちトランプ大統領が記者会見で明らかにしたポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官などが実務レベルで交渉を続け、北朝鮮の核の廃棄についての明確な制限時間などが明らかになるだろう。
今回私がここで述べたいのは、前述の日本の野党による国益よりも党利党略を重視した行動や米朝首脳会談よりも、この時期に漁夫の利を得たような形で中国の世界に対する覇権行為がどんどん進んでいることである。日本のメディアなどでは米中の経済戦争としか両国の対立を見ていないようであるが、中国は明らかに米国に代わって覇権を奪おうとしている。その一つの例として中国は紅海の入り口に当たるバベルマンデブ海峡近隣に位置する、地政学的に極めて重要であるジブチに軍事基地を確保し、アジア以外の国に対しても自国の政治的野心を明らかにした。それに続いて今回外国の報道によるとパキスタンのグワダルで第2の中国による軍事施設が建設中である。もしこの二つの基地が完成すれば中東の原油を中国に輸送する航路周辺での戦略的存在感を示すことは確実である。
アメリカはオバマ政権時代から当時のオバマ大統領を弱腰と批判していたトランプ政権になっても、南シナ海における人工島の建設と軍事施設化の計画段階から何らの効果的な行動も取っていない。確かにアメリカは言葉で抗議したり、その周辺に潜水艦を送ったりはしているが、本気度を示すような物理的阻止には至っていない。それによって中国は逆に自信を持ち、例えばジブチで米空軍輸送機のパイロットに軍事用レーザーを照射して威嚇しているとの報道もある。トランプ大統領の朝令暮改的行動を中国は十分に理解しており、今、習近平国家主席はかつて鄧小平が提唱していた「能ある鷹(たか)は爪を隠す」とも言うべき遺言を無視して独裁体制を確立し、自信満々で世界覇権の野望を展開している。
北京政府の世界覇権実現のための手段としての「一帯一路」の重要なパートナーであるパキスタンに中国の大型海軍艦艇が入港できるようにするため、アラビア海に面したこのグワダル基地の湾岸施設拡張という形を取っているが、中国にはグワダル国際空港の整備拡大によって空と海双方の拠点として活用するもくろみがあるとも言われている。
中国は7月になって尖閣諸島など日本近辺の海の巡回もいわゆる海上保安組織の海警から軍の直結の武装警察に変わってきている。また北京政府は近年露骨に台湾に対して軍事的挑発を行っている。実際、台湾上陸を想定した大規模な軍事演習を行い、中国内外に対し軍事演習の意図を明確にしている。
6月末、中国を訪問したアメリカのマティス国防長官に対し、習主席は「南シナ海など領土問題でわれわれの態度は揺るぎない」と語ったと日本でも報道されているが、実際は英字新聞などによれば「われわれの領土的主権を1センチたりとも侵すことを許さない」とまで言ったらしい。この領土主権という言葉に関しては、その対談の前後の流れから見ると、特に台湾問題について中国が主権を強調したとしている。このことは最近中国が経済力を背景に小さい国々に対して経済的援助を餌に台湾との国交断絶を強行させていることと関連している。一貫性は無いがトランプ政権とアメリカ議会による台湾重視の動向を中国は深刻な問題として捉えており、過剰に反応している。アメリカの台湾代表部施設の新設や規模の拡張、機能の大幅な強化(警備など)は注目し評価すべきではあるが、今後継続的にこの路線が進むことを期待している。
最後に、日本では中国の政治的・軍事的・経済的力と国家の明確な野望を持っていることに、それを国際政治の一つの流れとして受け止め、中国の覇権に対し今から白旗を揚げた方が良いと言わんばかりの論客もおられるようだ。しかし、中国がアメリカに代わって世界の覇権国家になった場合、前述の論客方が日頃重視している自由と民主主義は踏みにじられ、隷属を強いられる覚悟がおありだろうか。国会前で政府を批判し民主主義の制度を軽視している人たちは真っ先に捕らえられ、共産主義洗脳教育を受けさせられる羽目になるだろう。今こそ中国の覇権に対し各国が覚醒し、その脅威に立ち向かえる信念のある指導者の下で、その悪夢が現実とならないよう各国および個人も自由と民主主義を守るため危機感を共有すべきである。