米最高裁判事、トランプ氏保守派指名

 トランプ米大統領は9日、退任する連邦最高裁のアンソニー・ケネディ判事の後任に保守派のブレット・カバノー連邦高裁判事を指名した。これを受け、人事承認のための審議が行われる上院で、共和、民主両党が11月の中間選挙をにらみ熾烈(しれつ)な駆け引きを繰り広げている。(ワシントン・山崎洋介)

承認へ中間選睨み攻防激化
中道派議員の動向焦点に

 現在、最高裁判事の構成は保守派5人、リベラル派が4人。ただ、共和党のレーガン政権時代に指名された保守派のケネディ氏は、人工妊娠中絶や同性婚などでリベラル派側の判決を下していた。最高裁判事は終身制のため、これまで銃規制や中絶などで一貫して保守的な立場を示してきたカバノー氏の指名が承認されれば、長期にわたって保守派の優位が続くことになる。

ブレット・カバノー氏(中央)とペンス氏(右)とミッチ・マコネル氏米連邦最高裁判事に指名されたブレット・カバノー氏(中央)は10日、ペンス副大統領(右)とともに共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(左)と面会した(UPI)[/caption]

 指名が発表された翌10日から、両党は人事承認をめぐって動き始めている。カバノー氏はペンス副大統領に付き添われて連邦議会を訪れ、ミッチ・マコネル上院院内総務ら共和党重鎮と面会し、支持を求めた。

 一方で、民主党は同日、チャック・シューマー上院院内総務らが最高裁前で記者会見。次期大統領選に出馬を検討しているとみられる女性のカマラ・ハリス上院議員は「問題となっているのは、女性が自らの体について決定する権利が政府によって取り上げられることだ」と訴えた。

 民主党は、カバノー氏が就任すれば、最高裁は女性の妊娠中絶の権利を認めた1973年の判決や医療保険制度改革(オバマケア)を合憲とした判断を覆す動きに出ると主張する。

 上院の議席は、共和党が51、民主党が49。だが、共和党はジョン・マケイン議員が脳腫瘍で闘病中のため、実質50といえる。仮に民主党が全員反対した場合、承認に必要な過半数を獲得するために、1人も失うことはできない。

 共和党議員で反対に回る可能性があるのは、人工妊娠中絶の権利を支持する傾向にあるスーザン・コリンズとリサ・マコウスキー両女性議員。昨年、共和党が提出したオバマケアを改廃する法案では、この2人が反対に回ったことで頓挫している。ただ、昨年、トランプ氏が最高裁判事に指名した保守派のニール・ゴーサッチ氏の承認には賛成している。

 これに対し、民主党は、保守色の強い州から選出された中道派の議員の多くが次の中間選挙で改選となるため、反対で一本化するのが容易でない状況だ。こうした議員は、承認に反対すれば保守派から反発を招き、賛成すればリベラル派からの票を失うことが予想されるため、承認の賛否を表明せず様子見の姿勢だ。

 こうした状況に、承認阻止を目指すリベラル派の活動家は不満を示している。

 リベラル系団体「デモクラシー・フォー・アメリカ」の広報責任者、ニール・スロカ氏は政治専門紙「ザ・ヒル」に、「われわれのすべての力をマコウスキー氏とコリンズ氏に向ける必要がある。民主党議員を正しい方向に仕向けるために無駄なエネルギーを使うべきではない」と語り、いら立ちを示している。

 米メディアによると、保守系、リベラル系の団体が、造反の可能性がある議員のいる州を中心にそれぞれ100万㌦を超える広告資金の支出を表明しており、両派の取り組みも熱を帯び始めている。

 ただ、民主党執行部は、承認阻止以上に、中間選挙での勝利を重要視しているようだ。共和党は9月までの承認を目指す意向だが、民主党がいたずらに審議の先延ばしを図れば、中間選挙で共和党候補から「民主党による妨害」などと批判を浴びることになる。このため、シューマー氏は「選択肢は多くはない」と述べ、一部のリベラル派活動家が主張する審議のボイコットを否定した。