高等教育無償化、人づくりに結び付く制度に


 低所得世帯の学生を対象に、大学など高等教育機関の無償化を図る大学等修学支援法が成立した。授業料や入学金を減免し、返済不要の給付型奨学金を拡充するのが柱で、2020年4月に施行する。

 低所得世帯を対象に

 減免の上限額は、国公立大が入学金約28万円、授業料は年間約54万円、私立大は入学金約26万円、授業料約70万円となる。給付型奨学金の上限額は、国公立大などに通う自宅生は約35万円、自宅外生が約80万円。私大などは自宅生が約46万円、自宅外生は約91万円だ。

 対象は年収約270万円未満の住民税非課税世帯とそれに準じる世帯の学生。住民税非課税世帯では減免、給付それぞれ上限額が支援される。また両親、本人、中学生の4人家族を目安に、年収約270万~約300万円未満の場合は3分の2、約380万円未満は3分の1の支援となる。

 住民税非課税世帯の高等教育機関への進学率は40%と推計されている。これは全世帯平均(80%)の半分にすぎない。意欲のある学生が、家庭の経済事情にかかわらず高等教育を受けられるようにして、貧困の連鎖を断ち切ることは重要だ。

 対象者は約75万人と見込まれているが、留年や出席率が5割以下などの場合は直ちに支援が打ち切られる。必要数の6割以下しか単位を取れなかったり、平均成績が下位4分の1となったりした際には、大学が本人に警告し、2年連続で警告を受ければ、やはり支援打ち切りの対象となる。生活費まで税金で賄う以上、対象者に勉学への熱意や一定の成績が求められるのは当然だと言える。

 課題も残されている。世帯年収が約380万円以上の中間所得層は今回の支援を受けられない。利用可能な国の奨学金は、無利子で最大月6万4000円、有利子で月12万円の貸与型だけで、これでは結局借金を強いることになる。返済できるかどうか不安で借りられず、アルバイトに追われる学生もいるという。これでは何のために大学に行くのか分からない。給付型奨学金の一層の対象拡大も検討すべきではないか。

 もう一つは文部科学省が、無償化の対象となる大学などの条件の一つとして、実務経験を持つ教員の授業が1割以上あることを挙げていることだ。実務経験とは企業や官庁などに勤めた経験のことだが、文学や理学などの学部はこのような教員の採用が難しいだろう。

 こうした方針の背景に、直接の利益につながらない学問や基礎研究を軽視する姿勢があるのだとすれば問題だ。無償化を低所得世帯の学生への支援だけでなく、広い視野と柔軟な発想を持つ人づくりに結び付けることが求められる。

 各大学は魅力ある教育を

 一方、定員割れに悩む大学などは、無償化が市場拡大につながることに期待を寄せている。

 ただ文科省は、3年連続で収支が赤字であったり、学生数が定員の8割未満であったりした大学や短大は、無償化の対象外とする方針だ。各大学は人材育成に向け、魅力ある教育内容を示してほしい。