沖縄・名護市長選の勝因は公明党の「根こそぎ作戦」だと分析する文春
◆新潮は“進次郎効果”
秋の沖縄知事選の前哨戦として重要な意味を持つ名護市長選は新人の渡具知(とぐち)武豊氏が「オール沖縄」で翁長雄志知事らの支援を受けた辺野古移設反対の現職稲嶺進氏を大差で破った。
週刊新潮(2月15日号)は勝因を「“進次郎”応援が実った」としている。小泉進次郎自民党筆頭副幹事長が「2度も」現地応援に入り、しかも周到に「NGワード」などを外した台本を基に「地元の名産」などを織り交ぜながら聴衆を魅了したことが奏功したという分析だ。
もちろん、「菅義偉官房長官はじめ党幹部が続々と沖縄に入った上、創価学会もフル稼働。学会幹部が現地に張り付く異例の態勢」を取ったと「自民党関係者」は同誌に語っており、一人進次郎氏だけの“お手柄”だったとは言ってはいないものの、「その影響力は絶大」だったとして、どうしても同誌は“進次郎効果”を強調したいようだ。
◆縁故徹底活用で集票
同じ話題を週刊文春(2月15日号)も扱っているが視点が違う。「名護市長選で『創価学会はパンダに勝った』」と言うのだ。これによると公明党が「根こそぎ作戦」を発動させ、それが成功したことが大差での当選につながったという分析だ。
根こそぎ作戦とは何か。「公明党幹部」が同誌に明かす。「市議・県議から国会議員に至るまで全国の公明党議員に名護市内の知人の紹介カード、いわゆるF票を提出させました。そのリストは三千人。さらにカードを提出した全国の党員本人を名護入りさせ、票固めしてもらいました」ということだ。
公明党だからできる縁故を徹底して活用する票集めである。前回の市長選で公明票の多くは稲嶺氏に流れ、保守候補は敗れた経緯がある。このため、菅官房長官は「かねてからパイプのある公明党の支持母体、創価学会の佐藤浩副会長に連絡し、支援を頼んだ」ことで、今回は逆転を実現した。
選挙戦初め、稲嶺陣営は中国からパンダを名護市の自然動植物園に誘致する「目玉公約」をぶち上げ、集会にはパンダの着ぐるみまで動員していた。「稲嶺陣営がリードし、一時はトリプルスコアの差をつけていた」という。これに危機感を強めた菅官房長官が学会幹部に支援を要請し、「学会がパンダに勝った」という結果になったわけだ。
名護市の例を待つまでもなく、今や全国各地で公明票が勝敗を左右するキャスチングボートを握っている。首長選ではどこへ行っても公明党が支持した側が勝つというパターンが見られる。裏を返せば、保守系候補が自民党の票だけでは当選できなくなっているということだ。
◆辺野古移設に触れず
公明党が与党に入り、自民党を助ける理由について同誌は「公明党幹部」の言葉を紹介している。
「今年にも安倍晋三首相が着手するとされる改憲に影響力を行使することです。学会の婦人部には依然、改憲慎重論が根強い。自民党も今回の結果を受けて、公明党へ配慮せざるを得ないでしょう」
もちろん政治であるから、さまざまな駆け引きはあるだろう。改憲論議もどう展開していくかも分からない。どういう場面で“貸し”が効いてくるのか、“チャラにされる”のかはその時々の情勢次第だ。
同誌は公明票が勝敗を分けたと分析したまではよかったが、渡具知氏の勝利で普天間飛行場の辺野古移設がどうなっていくのかについては一切触れなかった。結果が出てすぐの記事では間に合わなかったのかもしれないが、次の展開に言及しておく必要はあったのではないか。
こうして自民・公明の泥臭い協力があったという文春の記事に比して、新潮の「進次郎応援が実った」という記事は少しのんきな気がする。どうせなら、小泉氏が活躍を重ねていくことが自民党にどのような影響を与えるのか、多少気が早くもあるが、そういう分析もしておくべきだったのではないか。
「たかが地方の市長選」ではあるが、飛行場移設問題のみならず、改憲論議や9月の自民党総裁選にも影響を与えていく可能性のある話題だけに、これだけで終わってほしくはなかった。
(岩崎 哲)





