支持率低下も経済順調、揺るがぬ安倍内閣

“秘密保護国会”が閉幕

迷走する野党、マスコミも賛否二分

自公、軽減税率で妥協案

“秘密保護国会”が閉幕

衆院本会議で内閣不信任決議案が反対多数で否決され、一礼する安倍晋三首相(右)。左は麻生太郎副総理兼財務・金融相=6日夜、国会内

 安倍晋三首相は9日、臨時国会の閉会に伴って記者会見し、特定秘密保護法成立が拙速だったとの批判に「私自身、もっと丁寧に説明すべきだった」とする一方、「生活が脅かされることは断じてありえない」と言明した。これを受けて秘密保護法成立に賛成の読売は、新設した国家安全保障会議(日本版NSC)を司令塔として活用し、首相官邸主導で外交・安全保障に取り組むための体制作りを急ぐ考えを強調した。だが朝日は、秘密を漏らした公務員への罰則が強化され、報道機関の取材が萎縮して国民の知る権利が損なわれるケースへの言及がなかったとし、官僚が恣意(しい)的に秘密を指定できる余地を残すとの件については、政府は保全監視委員会や情報保全監査室といった組織を国会審議の土壇場で次々打ち出したが、いずれも身内の官僚による組織で、官僚が恣意的に秘密を指定できる懸念を払拭できていないと判定した。

処罰対象は公務員

 自民党の石破茂幹事長は11日、日本記者クラブで「わが国の安全が極めて危機にひんするのであれば、常識的に考えれば、何らかの方向で批判される。報道した当事者が処罰の対象になるのは、最終的に司法の判断になる」と述べた。報道した場合に批判される可能性に言及したものだ。約2時間後、石破氏は党本部で秘密保護法の処罰対象について「秘密を漏洩した公務員であり、報道した当事者は全く処罰の対象にならないので訂正したい」と釈明、12日、今度は民放ラジオで「でも大勢の人が死んだとなればどうなるのか」と再び疑問を投じた。朝日は、知る権利やそれを支える報道の自由の大切さは軽視され、秘密保護法への不信感を一層広めたと指摘した。読売は、訂正を含む石破発言を、コメントなしにそのまま報道した。

 秘密保護法は、さる6日夜の参院本会議で自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。賛成130票、反対82票。10月15日に召集された今国会は、7月の参院選で衆参ねじれが解消して初の本格国会となった。安倍首相は経済の「成長戦略実行国会」と銘打ったが、召集後は秘密保護法をめぐる与野党の対立が日増しに激化、秘密保護国会の様相を呈した。最終盤になって混乱はきわまり、解任、不信任、問責が乱れ飛んだ。政権のブレーキ役を自任していた公明党は「ブレーキをかけるのが目的ではない。力を合わせて前進をはかるのが国民の期待だ」とギアを切り替えた。

 公明党は、消費増税の際の軽減税率で同党の考えを生かそうとした。自民党も集団的自衛権などで今後、公明党の支持が必要なので極力、同党の支持を得ようとした。自公両党は生活必需品の消費増税を低く抑える軽減税率について「消費税率10%時」の導入で折り合った。早期導入を求める公明党と、慎重な自民党がそれぞれ都合良く解釈できる妥協案で、実際の導入時期は不透明だ。両党は12日に決めた2014年度税制改正で亀裂が入らないことを優先した。

 参院本会議での秘密保護法採決の際、民主党はいったん退席した。ところが党内から異論が相次いだため、本会議場に戻り、反対票を投じるという迷走ぶりだった。維新の会とみんなの党は、法案修正で与党との協調姿勢を示しながら、それぞれの党内で足並みが乱れ、採決時には与党の姿勢を理由に退席した。

 国会がこういう状況だから報道界の秘密保護法への賛否も二分される。特に秘密の範囲があいまいで、官僚による恣意的な秘密指定が可能なうえ、秘密指定の妥当性、チェックする段取りも不十分だから反対も強い。この点、首相も準備不足で不手際だった。賛成の読売、産経、世界日報と、反対の朝日、毎日、東京に分かれてしまった。反対は、朝日が社説で「憲法を骨抜きにする愚挙」と銘打って「国会が使命を忘れ、行政府独裁に手を貸すのは、愚挙というほかない。国民も問われている。国民主権だ、知る権利だといったところで、みずから声を上げ、政治に参加する有権者がどれほどいるのか。反発が強まっても、次の選挙のころは忘れているに違いない。国民みずから決意と覚悟を固め、声を上げ続けるしかない」。毎日は「国家機密を守るには、現行法の厳格な適用で十分対応が可能なはずだ。秘密保護法は廃止か全面的な見直しを求めたい。政府・与党の横暴を忘れてはならない。民主主義を後退させないために、来たるべき国政選挙で民意を問うべきだ」。いずれも自信満々だ。

監視は報道の責務

 読売で注目されるのは、さる7日に載った社会部長論文だ。「知る権利に応え続ける」と銘打って「秘密保護法は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で、行政機関の長が安全保障に関して特に秘匿すべき情報を指定し、情報漏洩を防ぐというものだ。国益に関わる情報が漏れない仕組みは必要だろう」と賛成論を述べる。「ただ懸念されるのは、秘密指定の運用が恣意的になり、秘密の範囲が際限なく広がらないかという点だ。国会審議で政府が第三者機関の設置を明言したことは評価できるが、法施行までに実効性を持たせるよう議論を尽くしてもらいたい。膨大な秘密の指定や解除などが妥当かどうかを第三者機関がしっかり検証し、機能しているかどうか、監視するのは報道機関の責務だ。あらゆる事態を想定して取材源を徹底的に守り、国民に知らせるべき情報を的確に伝えていく」と政権側の準備不足を説く。これはこれで良い。

 こうした中で、世界日報の「NSC設置法と特定秘密保護法は、いずれも国民の安全を守るために不可欠な法整備だ」というストレートな論法も注目される。

 社説は「わが国の情報保護体制が不十分で、他国から疑問を投げかけられてきた。このままでは、わが国は情報真空地帯となり、いくらNSCを作っても機能不全に陥りかねない。新たな情報保護体制が必要なゆえんだ」という。結論として「法は破られることによってではなく、適用しないことで形骸化するというのが本質だ。その好例は破防法だ。特定秘密保護法を適用するには、英国の“MI5”のような防諜機関が不可欠だ。それゆえ次の課題は秘密情報収集・防諜両機関の設立だ」。朝鮮問題に関心の深い世界日報は、今の北朝鮮や中国の動向は座視しえないだろう。北朝鮮では金正恩第一書記の権力集中が進み、比較的日本に好意的とも取れる張成沢が排除された。中国は新たな防空識別圏を東シナ海で決め、尖閣諸島もその中に含めて、太平洋への進出を図っている。北朝鮮や中国のスパイらしき連中は、秘密保護法のなかった日本にはうようよいるともいわれるのだ。

 しかし秘密保護法に反対側もさるものだ。世論調査を持ち出す。まず朝日は、秘密保護法が6日深夜成立したのを受け緊急世論調査を実施したところ、秘密保護法の国会での議論が「十分だ」は11%にとどまり、「十分ではない」が76%に達した。賛否については賛成24%、反対51%となり、法律が成立してもなお反対が多数を占めた。秘密保護法に賛成の層でも議論が「十分だ」は30%しかなく、「十分ではない」が59%に上る。反対の層では「十分ではない」が89%に達した。安倍内閣の支持率は46%、不支持率は34%。前回の支持率49%、不支持率30%に比べて差が縮まった。

 毎日や東京新聞に10日載った共同通信の緊急世論調査では6日に成立した秘密保護法を今後どうすればよいかについて、来年の次期通常国会以降に「修正する」との回答は54・1%、「廃止する」が28・2%で、合わせて82・3%に上った。「このまま施行する」は9・4%にとどまった。安倍内閣の支持率は47・6%と、前回11月の調査から10・3ポイント急落した。支持率が50%を割ったのは昨年12月の第2次安倍内閣成立以来初めて。不支持率は38・4%(前回26・2%)だった。読売も6~8日全国世論調査を行ったが、安倍内閣の支持率は55%で、前回(11月8~10日)64%から9ポイント下落し、昨年12月の内閣発足以来、最低。支持率低下は、秘密保護法の成立をめぐる与党の国会運営への不満の表れとみられる。

首相の長年の念願

 しかし安倍首相にとって秘密保護法の成立は、すでに成立しているNSC法とともに長年の念願ともいえる。祖父岸信介首相から引きついできた日米同盟の重要な一環ともいえる。経済の成長戦略と銘打ってきた臨時国会が終盤、秘密保護国会に変質したともいわれるが、どうもこの方が本音だったのではないか。NSC法との両輪論から集団的自衛権の確保、さらに最終的に憲法改正へとつなぐ。それこそ安倍首相の本音ではないのか。

 内閣府と財務省が10日発表した10~12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業の景況感を示す景況判断指数は8・3となり、指数は過去6番目に高く、4四半期連続でプラスの水準を保った。中小企業の改善も目立ち、企業の収益改善の流れも途絶えていない。だからいくら世論調査の結果が思わしくなくても、経済は順調だ。

 選挙に勝って衆参両院で多数を獲得したことは非常に大きい。選挙で直接、秘密保護法への賛否を問うたわけではないが、選挙大勝は万能薬でもある。内閣支持率が今を下限とし、これ以上極端に落ちることはない、回復も可能とすれば、野党も含め他に特に人材もないので大丈夫ではないか。当面は準備不足といわれる首相の動向を慎重に見守っていきたい。

 (ジャーナリスト)