第2次安倍改造内閣 長期政権へ足場、順調に始動
老獪な党人事、女性大臣を積極登用
多弱野党の再編進まず
安倍晋三改造内閣は順調に始動している。稲田朋美前行革相率いる政調会には閣僚経験者らベテランを配し、選対委員会には首相や菅義偉官房長官に近い人物を登用。一方で石破茂前幹事長の人脈は一掃され、官邸主導で党運営が進む傾向がより強まった。首相が改造内閣の目玉として設け、地方再生の司令塔となる「まち・ひと・しごと創生本部」が動き始めた。縦割り排除、バラつき厳禁をうたうが、各省庁からは公共事業などの予算要求がずらり。石破地方創生相の手腕も問われる。内閣改造で自らの処置をめぐる発言で批判を受けた石破氏にとって結果を出せるかどうかは今後の求心力にも直結する。
与党は仕切り直し
一方、公明党との連携を重視する自民党の谷垣禎一、二階俊博両氏が、それぞれ幹事長、総務会長として党執行部に入り、与党は仕切り直しに動く。公明党が重視する生活者に軸足を置いた政策や中国、韓国との関係改善に結束して取り組む。公明党の山口那津男代表は、自民党の新執行部の顔ぶれを「前執行部に比べ、安定感が増した」と高く評価する。特に信頼を置くのが谷垣氏だ。両氏は民主党政権時に、ともに野党党首だった。2012年6月には社会保障と税の一体改革をめぐる民主党との合意を実現し、消費増税に道筋をつけた。与党時代の07年には訪中団の一員としてそろって訪中し、後に国家主席となる習近平氏と会談した。新執行部には公明党の支持母体・創価学会との関係が深い二階総務会長も名を連ね、公明シフトのようにも見える。谷垣、二階両氏はともに中国とパイプがあり、公明党は両氏と連携して首相に関係改善を働きかける好機とみる。
首相は改造内閣発足にあたり「引き続き経済最優先でデフレからの脱却を目指し、成長戦略の実行に全力を尽くす」と強調。課題として「元気で豊かな地方の創生」を挙げ、その担当相に石破氏を選んだ理由として「石破氏は地方から信頼されている政治家だ」と持ち上げた。首相の頭にあったのは党を束ね、総裁を支える幹事長の地位にありながら、来年秋の総裁選出馬を目指す石破氏だった。長期政権を目指す首相にとって、野心を持った実力者の存在は許せない。とはいえ、重要政策が山積する中「重し」となる実力者の登用で党内の動揺の芽も事前に摘んでおきたい。この一見矛盾した方程式の「解」として、首相が温めていたのが谷垣氏だった。
首相には、谷垣氏の秩序を重んじる性格を見越した計算があった。谷垣氏の持論は、政権与党の一致団結だ。首相が安全保障担当相への就任を石破氏に打診し、石破氏がこれを拒んだと知ると、谷垣氏は閣議で顔を合わせた首相や麻生太郎副総理に「あの言動はいかがか」と眉をひそめたという。谷垣氏は総裁時代の2012年、総裁選立候補へ引かない石原伸晃幹事長(当時)と衝突。「執行部から2人が立候補するようなおかしな道は選べない」と自ら再選出馬を断念した。その谷垣氏が、自ら首相を裏切るわけがない。かくて党内の不安定要素だった石破氏を配下に取り込み、谷垣氏は幹事長として奉る。結果的に首相は総裁選再選とその後の長期政権に向けた足場をつくった。安倍、谷垣ラインは、首相の解散、総選挙戦略にも影響を与える。党内の不協和音を抑えられれば、解散時期の決断は首相の思うままだからだ。
櫻井よしこ氏は有力政治ジャーナリストの意見として今回の人事から、この11月総選挙を想定する。首相は改造内閣を「実行実現内閣」と命名したが、眼前には消費増税、原発再稼働、環太平洋連携協定(TPP)、北朝鮮の拉致問題、沖縄知事選、来春の統一地方選、集団的自衛権、中韓両国とのせめぎ合いなど数々の内政外交問題が控える。いずれも問題が多く、ひとつひとつ積み上げていけるのか。そこへ谷垣、二階氏の布陣。高い調整能力を持つ二階氏とリベラル勢力の雄である谷垣氏をしっかりと引きつけ、党内の権力基盤を固めた老獪(ろうかい)な党人事に比べ、内閣人事は斬新さも目立つ。そこから衆院選投票日を11月9日と読んで事務所を手配した者もいるというが…。
しかし一強多弱、まともな野党がいない今ならそこまで考えなくとも、消費税がどちらに転んでも、中韓との外交が当面まとまらなくとも解散はやれるのではないか。例えば来年の通常国会で集団的自衛権関連の法案成立後でも良いのでは―。野党は支持率が最も良い民主党でも5%そこそこ。海江田万里代表も代表に留まるのがやっと。とても政権をうかがうなど考えられない。日本維新の会と結いの党は21日に結成する新党の名を「維新の党」とすることをやっと決めたが、「結党前からこれだけもめるようでは先行き全く不安」との声も上がる。みんなの党も渡辺喜美前代表の復活は良いが、渡辺氏は浅尾慶一郎代表に辞めてほしいと要求する始末。野党再編などとんでもないという状況だ。
支持率大幅アップ
それに新聞各社の世論調査でも読売は内閣支持率が64%で改造前の51%から13ポイントも上がっている。朝日も読売ほどではないが大幅上昇。NHKも支持率58%で大幅アップ。女性の閣僚への積極登用や党役員、閣僚の布陣の重厚さが受けたとみられる。
「アベノミクス」は、大量のお金を世の中に出回らせる金融緩和、公共事業などで仕事を増やす財政出動で経済をふくらませてきた。初めはその大胆さで景気を刺激したが、最近は効果も薄れ、息切れもみられる。だがこのところ経済界からは安倍改造内閣を評価する声が相次ぎ、政治資金も出すという。法人税の減税、原発の再稼働、TPPの推進に期待を強めている。消費税率を10%に引き上げることも「財政規律を守るためにも絶対に必要だ」との声も強い。が、安倍首相は7―9月の経済指標を見てから年末には決めると慎重だ。
原子力規制委員会は10日、九州電力川内原子力発電所の安全審査合格を決めた。九電は地元の同意を得て今冬の再稼働を目指す。川内に続き関西電力の高浜、九電の玄海も再稼働の2番手になりそうだ。
ただ、原発問題担当の小渕優子経済産業相が適任かどうかはよく考えたほうがよい。小渕氏は二世らしい優雅な人柄で信用を得ているが、政策にどこまで通じているか、役人のいう通りじゃないかと心配だ。女性閣僚全般にいえることだが、適正かどうかはよく考えたほうがよい。「大した実績もないのに優遇されている」。女性の積極登用の裏で、入閣を逃した中堅・ベテラン議員にはやっかむ声も多い。女性閣僚がどれだけ実績を残せるかは、改造内閣の評価を左右する。
谷垣幹事長、二階総務会長らは日中関係改善を目指しているがどこまで発展するか。政府は来年通常国会に集団的自衛権関連法案を一括提案するが、その前にどこまで歩み寄れるのか。中国の習国家主席は3日、中国が定めた抗日戦勝記念日に日中関係について「中国は関係発展に努力し、日中共同声明、日中平和友好条約などの政治文書に基づいて関係の長期的、安定的で健全な発展を望む」と演説した。日中関係の安定が必要だとの認識を示したのだ。一方で「日本軍国主義が中国を侵略した歴史を深刻に反省することが、日中関係の政治基盤になる」と安倍政権の歴史認識を改めて求めた。尖閣諸島には触れなかった。日中双方は11月に北京で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、安倍氏と習氏との会談実現を探っている。
さし当たりは11月の沖縄知事選だ。名護市辺野古への米軍普天間基地移設計画をめぐって賛成の仲井眞弘多現知事に対し、反対の翁長雄志氏が10日、立候補を表明した。安倍政権は地元振興策をアピールするが、この自民党系対決はどうなるか。
吉田氏証言は虚偽
1993年8月、宮沢喜一内閣の河野洋平官房長官は、慰安所の設置や管理、慰安婦の移送について「旧日本軍が直接、間接に関与した」と認めた。戦時中に山口県労務報国会下関支部の動員部長を務めたと称する吉田清治氏(故人)は朝鮮の済州島で、慰安婦にするために女性を暴力的に連れ出したと講演や著書で証言。以来、朝日は1982年以降、吉田氏の証言を32年間にわたり16回も取り上げた。今回朝日は8月5日にやっと吉田証言を虚偽と判断。虚偽判断したのは吉田氏が自らの体験として済州島で200人の若い朝鮮人女性を「狩り出した」などと朝日大阪本社版朝刊が82年に報じたもの。
「過ちがあったなら証言するのは当然。でも遅きに失したのではないか。過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか」と池上彰氏は書いている。今回の池上コラムは当初、朝日として掲載を見合わせたが、その後の社内の検討の結果、掲載することが適切だと判断した。
国連人権委員会の特別報告官クマラスワミ女史が人権委員会に提出した報告書は、吉田清治証言や女子挺身隊制度による慰安婦連行説を根拠としている。事実認識が根本的に間違っている。女子挺身(ていしん)隊と従軍慰安婦を同等に扱うなど全く違う。
朝日の木村伊量社長はいったん「謝る必要はない」と言った。しかし吉田証言を否定した以上、謝るのは当然ではないか。木村社長は11日夜、記者会見し「再生の道筋をつけた後、速やかに進退について決断する。その間、報酬はもらわない」と述べた。朝日は福島第一原発でも吉田昌郎元所長(故人)の誤報問題がある。これと併せて辞任するという。いわゆる慰安婦問題は日韓の外交問題を超えて広がり、96年には国連のクマラスワミ報告が、慰安婦を「強制連行された性奴隷」と認定し、2007年にはアメリカ下院が慰安婦に対する日本政府の謝罪要求を決議している。在米の韓国系市民団体は、米国のあちこちに「慰安婦の像」を建て、日本政府を国際舞台で貶(おとし)めようと必死だ。
(ジャーナリスト)






