女性閣僚に望む実力主義
安倍改造内閣に期待感
スター育ての大臣職は疑問
1986年に北欧フィンランドを訪れた時、父(細川隆一郎)の文部大臣との面会に同行したが、大臣が女性であったことに、高校生だった私はかなり衝撃を受けた。私は日本で、まだ女性大臣を見たことがなかったからである。
それもそのはず、日本の女性大臣の第一号は、1960年7月19日に発足した第一次池田内閣の中山マサ厚生大臣で、第二号は、1989年の第一次海部内閣である(森山真弓官房長官・環境庁長官、高原須美子経済企画庁長官)。実に29年間も、女性大臣が誕生することはなかった。その「空白期」に生まれ育った私には、それも文部大臣という重要閣僚を当たり前のように女性が務めていることこそが、フィンランドに滞在していてもっとも印象に残ったことと言っても過言ではないほどであった。しかし、当時、フィンランドは女性閣僚は3人だったが、これでも北欧3カ国の中では少なく、スウェーデンは5人、ノルウェーは8人であった。「クオーター制」という、女性の登用の比率をクオーター、つまり4分の1にするという制度を社会が目指していることも聞いたが、それにしても、社会における女性の立場が、日本とあまりに違うことを目の当たりにし、その後の私の人生の選択においても、少なからず影響を与えたことは事実である。
第二次安倍改造内閣の発足にあたり、この28年前の「衝撃」を思い出した。「女性閣僚最多」などと言われること自体遅れているという批判もあるが、ようやく日本の女性たちも、その実力が認められる社会へ進むという期待感が持てたという意味で、大変大きなことであったと思う。
ただ、留意しなければいけないことは、その「実力」が本当にあるか、ということである。その点からみると、山谷えり子国家公安委員長・拉致担当大臣、高市早苗総務大臣は適任であったと思う。山谷大臣は、誰よりも拉致被害者のご家族の気持ちに寄り添える人であり、またジャーナリスト出身で、新聞の編集長も務めていた経歴からも、組織を使いこなして執務を進めることができるだろうと期待できる。高市大臣は、第一次安倍内閣で、内閣特命大臣として、今回の総務大臣の職務にも関係するITやイノベーション分野など実に19分野の政策を担当していた。それが、先ごろまでの自民党政調会長として大いに役に立ったと、政調会長時代に取材した折に述べていたが、総務大臣は、情報通信分野から地方行政、消防などの災害対応など、実に幅広い所掌事務がある。すでに経験済みの高市氏には適任といっていいだろう。松島みどり法務大臣は、法務の分野は専門ではないというものの、山谷大臣と同じく、ジャーナリスト出身の現場主義でフットワークもよく、何より、世襲が多くを占める自民党で、公募第一号として候補者に選ばれたということからも、意欲や実力はある程度期待ができるだろう。
これまで大きく注目されることはなかったが、有村治子女性活躍・行政改革大臣は、育児とキャリアを両立している立場を大いに生かしたポジションであり、兼務する消費者・食品安全、少子化対策などについても、消費者や主婦の視点をもって取り組むことが大いに期待できるのではないだろうか。
しかしながら小渕優子経済産業大臣の就任だけは、懸念が大きい。次のスターを育てるのに、大臣職という重責を担ってもらっては困るのだ。放送局での勤務経験もわずか3年足らずで、父・小渕恵三首相(当時)の秘書となり、それからわずか1年で、父・恵三氏の急逝によって衆院選初出馬・初当選。40歳ながらすでに当選5回で、入閣も2度目というまさに「若手のホープ」ではあるのだが、それはあくまでも「永田町」での華々しい経歴であって、大臣という職務につくには、実社会での経験や、どのような国家観を持っているのかということが大いに問われてくる。
特に今内閣は、「経済最優先」と安倍総理も言っているように、消費税増税を主要因の一つとする景気回復の遅れが、この内閣発足前から明らかになっている。内閣府が発表した国内総生産(GDP)改定値によると、今年4~6月期は、年率でマイナス7・1%というとんでもない結果だ。増税前の駆け込み需要とその反動は一時的なものというが、安倍政権発足直後の昨年1~3月期にプラス4・1%であったのをピークに、その後も1%前後を推移していたにすぎない。この状況で経済再生に大きくかかわる経済産業大臣に、これまで同分野で未経験の小渕氏を起用するのは、国民を犠牲にした実験であるとさえ、思う。とはいえ、経済再生担当の甘利大臣の留任や、経済再生は全分野で取り組むことでもあり、小渕大臣一人にかかっているわけではない。しかし、この状況で重要閣僚の一人に抜擢(ばってき)するに値するほどの実力があるとは到底思えないのである。
すでに、初入閣漏れした「適齢期」の議員たちから不満の声も漏れ始めているとも聞く。「クオーター制」の運用に疑問がでるのも、女性登用を数値で縛ることで、実は多くの問題を生むからだ。実力のある女性は、性別によって差別されない。過去最多タイの女性閣僚を含む第二次安倍改造内閣も、全閣僚が大きな成果を出すことを、心から期待している。
(ほそかわ・たまお)






