集団的自衛権の行使容認 首相、今国会中に閣議決定と明言

自民、慎重姿勢の公明と詰めの協議へ

民主は具体案を示せず

 政府・与党は11日、集団的自衛権の行使容認の閣議決定をめぐる最後の詰めの協議に入った。安倍晋三首相が22日までの今国会会期中の閣議決定を指示したことを受け、ずっと慎重姿勢を示していた公明党も妥協点を探る。連立の枠組みへの影響を避けるため、同党内では上田勇政調会長代理が11日のラジオ番組で「自民党が丁寧な議論をしてくれれば集団的自衛権行使を認める憲法解釈の変更を容認することもあり得る」と述べ、石破茂自民党幹事長は「きちんとした議論で党内、支持者の納得が得られるなら、解釈変更はある、という見解の表明だ」との期待を示した。

決裂したくはない

 首相指示の翌11日朝、自民党の高村正彦副総裁は、公明党の北側一雄副代表と顔を合わせ「20日の閣議決定は動かせない。これは首相の強い意向だ。公明党内の同意が得られるよう動いてほしい」と頼んだ。北側氏も「首相や自民党の思いは分かっている。与党として決裂したくはない」と答えた。首相が「今国会中」を強く望んでいることが伝わったため、公明党幹部の中には「どう会期末を迎えるか考えないといけない」と、会期末に何らかの結論を出すべきだとの意見も出ている。

 「安倍首相が唱える限定容認論を、さらに狭めた形で容認する」案も浮上している。北側氏も高村氏に「こちらも譲れない部分があるので明確にしてもらいたい」と述べ、文案や歯止めの策で公明党の主張を入れるよう求めた。公明党の山口那津男代表は11日、会期内の閣議決定について「首相から直接うかがったことはない」と語り、与党内では党首会談で落としどころを探る案も浮上している。

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首討論で論戦する安倍晋三首相=11日午後、国会内

 安倍首相は11日、今国会初の党首討論で、憲法解釈の変更について「政府として立場を決め、閣議決定する」と明言した。これに対し公明党は幾分柔軟にはなったが、まだ閣議決定には応じない構えを崩してはいない。民主党の海江田万里代表は、憲法解釈の変更で行使を認めることは許されないと批判。憲法改正ではなく、解釈変更で認める理由をただした。首相は朝鮮半島有事を念頭に日本人を乗せた米艦艇を自衛隊が守る事例を挙げ、「今までの解釈では守れない。憲法の前文、13条に平和生存権があり、国民の幸福追求権がある。いま挙げた事例で、憲法が国民の命を守る責任を果たさなくていいと言っているとは、私にはどうしても思えない」と反論した。

 海江田氏はまた、中東のペルシャ湾・ホルムズ海峡での機雷除去を挙げ、「戦闘中で、自衛隊員の命が失われる可能性がある。そういう時も首相は命を捨てろというのか」と質問。首相は「確かに機雷の掃海は危険だ。しかしホルムズ海峡で機雷が敷設され、封鎖された際、経済パニックが起きる。日本は決定的にその被害を受ける」と、日本が責任を果たす必要があるとの考えを示した。

 自民党の石破幹事長は「公明党は閣議決定について難しいとはいうが、できないとは言っていない」と合意への期待感を示した。政府関係者は「もう妥協の余地はない。あとは公明党が集団的自衛権を認めるか、認めないかだ」と語り、公明党に決断を求める構えだ。党首討論では、公明の山口代表は与党党首のため質問せず、首相の後方で議論を見守った。集団的自衛権の行使に慎重な山口氏は硬い表情のまま首相の発言にペンを走らせた。終了後、山口氏は「全体の印象としてはかみ合っていない」と物足りなさを口にした。

 憲法改正は時間がかかる以上、合理的な範囲内で解釈を変更するのは、現実的な対応とも見える。海江田氏も、安全保障の法整備の必要性は認めたが、具体案は示さなかった。民主党内では、行使容認をめぐって賛否両論があり、統一見解はまとまっていない。各論に踏み込めば、党内対立を助長しかねないとの懸念があったのではないか。党内では、前原誠司元代表ら保守系議員から海江田代表の交代を求める声が公然と出ている。日本の安全保障に関わる重要問題だから党内議論を先送りせず、早急に党の見解をまとめるべきだ。

袋小路の党首討論

 党首討論という論戦形式も袋小路に入っている。最近は与野党間で月1回と定期開催を申し合わせたが、実態は1国会1回きり。45分と短く、少数政党の野党には登場機会すらない。野党党首の主張にも一体感はなく、低調な論戦が続く。民主党の松原仁国対委員長は「安倍さんは自分の世界に酔い、討論がかみ合う必要はないと思っているのではないか。言論の封殺のような党首討論だ」。

 一方で、首相は維新の石原慎太郎共同代表や、みんなの浅尾慶一郎代表とは、丁寧に向き合った。集団的自衛権について「みんなの党や維新の会は、難しい問題だが、あえて国民にその立場を表明している」と持ち上げた。公明党の山口代表は「首相は民主党の弱点を突いたのだろう」と解説してみせたが、会期内の閣議決定をめぐる自民、公明両党の攻防が激化する中、首相発言は公明党へのけん制にほかならない。「(公明党は)げたの雪のようについていくのではないか」。討論を終えた石原氏は、集団的自衛権の与党協議の行く末について、こう見通した。

 公明党の井上義久幹事長は10日、千葉市内で行った演説で、集団的自衛権の行使でなければ対応できない場合には、憲法解釈見直しの検討に応じざるを得ない方針も示した。井上氏は演説で「現行の憲法解釈では対応できないという事例があれば、限定的に容認するとなるわけだが、これまでの政府の憲法解釈との論理的な整合性、法的安定性などが検討されなければならない。なおかつ限定的に容認するための基準ができるという合意ができた時にはじめて容認する」と述べた。井上氏は首相が会期内の閣議決定を目指していることについて「必ずしも否定するものではない。何を閣議決定するか、できるところまでやる。一定のまとめは必要だ」との考えも示した。10日夜には首相と太田昭宏国土交通相ら公明党議員が都内のフランス料理店で会談。合意に向けた環境作りとみられる。

 安倍首相の集団的自衛権行使容認には、中国のあくなき軍事予算の拡大と東シナ海、南シナ海、そして太平洋への進出と、これに対する米国の反撃強化がある。東シナ海の尖閣諸島の領海侵犯と南シナ海のベトナム、フィリピン諸島の奪取がある。防空識別圏を勝手に作り、東シナ海の公海上で戦闘機が日本の自衛隊機に30㍍まで接近する。これに対し米国はオバマ大統領が4月来日して尖閣諸島への安保条約適用を明言。さらに米国防総省は5日、中国の軍事、安全保障に関する年次報告書を公表し、中国が東シナ海、南シナ海での有事に備え、海軍に新型艦艇を導入するなどの装備強化を進めていると指摘。米国は中国の南シナ海での石油掘削などに対し、「見て見ぬふりはしない」などとして厳しく対処する方針を示している。報告書は、アジア重視のリバランス(再均衡)政策を掲げるオバマ政権が、中国に抱く強い警戒感を浮き彫りにした。尖閣諸島については「日本の施政下にある」としたほか、中国が尖閣諸島上空を含む東シナ海に設定した防空識別圏について「米国はこれを受け入れない」との米政府の方針を改めて明記した。中国の軍備費全体についても「透明性が欠けている」と繰り返し批判し、2013年の国防費は公表されている1195億㌦(約12兆2236億円)より21%も多い1450億㌦(約14兆8320億円)を超えると見積もった。

平和主義の問題点

 平和主義の問題点は、自ら戦争しないのはいいが、相手が戦意を持つ場合にそれを助長する。例えばドイツのヒトラーが、1938年にチェコのズデーテン地方の併合を求めた時。英仏両国は第1次世界大戦の悲惨な体験から、戦争を避けたい一心で併合を認めてしまう。このミュンヘンの宥和がヒトラーの武力行使にはずみを与えた。平和を守りたいのなら、相手にも平和を守らせるために突っ張らないといけない時もあるのだ。

 五百旗頭真前防衛大学校長は読売紙上でこう語る。これは今の日本と中国の関係にあたる。五百旗頭氏は次のように結論付けた。「今日の環境に適合した穏当な憲法に変えることが望ましいが、難しいでしょう。戦前に続いて戦後も『憲法を抱いて滅びる』ことがないように、力を行使する意思のある周辺の国から我が国を守るため、憲法解釈の見直しも含めてあらゆる努力をなすべきです」。

 これに対して朝日の社説(集団的自衛権―乱暴極まる首相の指示)はいう。「政府の憲法解釈の変更によって集団的自衛権を認めることはそもそも、法治国家が当然踏むべき憲法上の手続きをないがしろにするものだ。…首相の指示を受けて自民党は、行使容認に難色を示す公明党との協議を強引に押し切ろうとしている。…自民党は、10年以上にわたって培われてきた公党間の信義をかなぐり捨ててでも、強行するというのだろうか。公明党は、それでも与党であり続けることを優先し、渋面を浮かべながらも受け入れるのだろうか。…与党間の信義という内輪の問題にとどまらない。国民に対しても不誠実な態度だ」。

 このままなら集団的自衛権の行使容認は恐らく今国会会期末までに決定されるだろう。今の国会の勢力分野からいえば恐らくそうだ。そして年末の日米防衛協力の指針改定を経て来年の通常国会では自衛隊法の改正など所要の措置が講じられよう。経済政策アベノミクスはまず順調。北朝鮮の抑留者帰還もまずありそうだ。そして安倍首相にとって代わる人は与野党を通じて目下、誰もいない。

(ジャーナリスト)