改正国民投票法が成立、本気で改憲論議を始めよ
憲法改正の手続きを定める改正国民投票法が成立した。改正法は成人年齢の引き下げや公務員の組織的な投票勧誘の是非などの課題を残すが、改憲の道筋を整えた意義は大きい。本格的な改憲論議へ駒を進める時だ。
公務員の賛否勧誘は問題
わが国を取り巻く国際環境は一段と厳しさを増している。中国の海洋進出や北朝鮮の核ミサイル開発のみならず、中東ではイラクにも戦火が広がり、わが国のエネルギー供給に暗雲をもたらしている。
憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」しようとするのは空想にすぎない。98条が誠実な遵守を求める国際法(国連憲章)は加盟国が軍隊を保有し、集団安全保障もしくは個別的・集団的自衛権の行使によって平和を維持するよう促している。果たして9条で国を守り、国際平和を築けるのか、はなはだ疑問である。
東日本大震災の際の「総理の無能」も、もとを正せば憲法に緊急事態条項が存在しないところから生じた。大震災や有事などの緊急事態を一切想定しない憲法が国民の生命・財産を守れるはずがない。
また衆参両院の役割の曖昧さ、地方自治の硬直性、単年度予算の弊害など統治機構の制度的欠陥は目に余るものがある。個人主義や権利の偏重も憲法に由来する面がある。こうした問題点を直視すべきだ。
改正法が与野党8党で成立したことを受け、「環境権」など一致しやすい条項から改憲論議を始めようという声が一部にあるが、そうした姑息なやり方では国の未来はない。これを機に衆参の憲法審査会は論議に本腰を入れるべきだ。
もとより改正法は多くの課題を残している。投票年齢を「20歳以上」から4年後に「18歳以上」へと引き下げるが、成人年齢については憲法論議から切り離すべきだ。関係する法令は公職選挙法や民法、少年法、飲酒、喫煙の禁止法など348にも上る。いずれも年齢引き下げの影響が懸念され、法律ごとに熟考すべきだ。それを憲法論議に持ち込むのは「牛歩戦術」に等しい。
また警察官や裁判官などを除く公務員が改憲に関する個人的な意見を表明したり、賛否の勧誘を行ったりすることを容認しているが、これでは公務員の政治的中立を損ない、行政の中立性を危うくしかねない。
とりわけ公務員労組の組織的運動を規制せず、検討課題として先送りしたのは問題だ。沖縄県における「オスプレイ反対闘争」では地元の県教組や県職労などのほか、本土からも多数の公務員労組を組織的に動員し、デモや集会を繰り広げた。
北海道や神奈川県、山梨県などの教職員組合は再三、組織ぐるみの選挙違反事件を引き起こしてきた。こうしたイデオロギー的な政治活動を行う公務員労組を野放しにすれば、改憲論議が歪(ゆが)められるのは目に見えていよう。
課題克服は立法府の責任
いずれの課題も克服し、かつ本格的な改憲論議を進める。それが国民から改憲の発議を付託されている立法府の責任だ。
(6月15日付け社説)