特定秘密保護法案審議入り

NSC法案と“両輪”今国会成立目指す与党

民主は情報公開法改正案で対抗

完全に賛否割れる新聞

 

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衆院本会議で日本版NSC(国家安全保障会議)を創設する関連法案が可決され、拍手する安倍晋三首相(右)=7日午後、国会

 外交、防衛、スパイ活動防止、テロ防止に関わる重要情報を閣僚らが指定、これら国の安全保障に関する情報を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案が7日の衆院本会議で審議入りし、安倍晋三首相が、国民の知る権利が制約されるとの指摘に対し「憲法21条が保護する表現の自由と結び付いたものとして、十分尊重されるべきものだ」と強調した。同法案を審議する衆院国家安全保障特別委員会で、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が6日に可決され、7日の衆院本会議で可決、参院に送られ、今国会での成立が確定したためだ。

 両法案はいわば車の両輪だ。秘密保護法案には、指定の基準があいまいで、特定秘密の範囲が広がるおそれがある。また閣僚らが指定する特定秘密を漏らした公務員らを最長で懲役10年の厳罰とするため、公務員側が厳罰を恐れて情報提供をせず、知る権利が保障されないという懸念もあり、これらが論点となる。

党内分裂の回避策

 与党は今月中旬にも同法案を衆院で可決させ、会期末の12月6日までの成立を目指す。民主党が提出し、裁判所が国の公文書非公開の妥当性を検証することを柱とする情報公開法改正案も併せて審議する。民主党は5日、NSC設置法案で修正を要求していた議事録作成を法案ではなく、付帯決議に反映させることで賛成を決めた。同党は特定秘密保護法案に対抗し、情報公開法改正案を提出しており、両法案同時審議によって安倍政権追及につなげる狙いだ。一方、これは民主党内の保守とリベラル派が分裂するのを避ける苦肉の策でもあった。

 民主党は7月の参院選マニフェストで「NSC設置で安全保障体制を充実」を掲げ、NSC法案には賛成が既定路線だった。長島昭久衆院議員ら保守派は「これで反対したら社共と同じだ」と主張。一方、神本美恵子参院議員らリベラル派は「安倍政権のゴールは憲法9条改正だ。その一環のNSCに賛成するのか」と反対意見も根強かった。結局、海江田万里代表に一任。議事録作成の「約束」を与党側から引き出すことで民主党の要求に近い形に修正させたとして賛成し、党の分裂を避けた側面も強い。民主党が議事録約束で賛成という苦渋の選択をしたことで、自民党側は特定秘密保護法案成立へと一歩を進めたともいえよう。が、新聞の半数前後の反対は根強い。

 法案に反対する声明も相次いでいる。日本ペンクラブ(浅田次郎会長)は「議員諸氏に対し、問題点を慎重に考慮し廃案に追い込むよう強く期待する」。日本雑誌協会と日本書籍出版協会は「取材が正当か否かもお上が決めるのでお飾りに過ぎない」と非難。日本民間放送労組連合会、日本新聞労組連合会も「国の情報が国民の知らないところで秘密指定され、一方的に闇に葬り去られる」とした。

 NSC設置法案は今国会で成立する見通し。ただ議事録作成は法案に明記せず、付帯決議も期限を盛り込まなかった。議論の詳細が秘密のまま、知る権利が制約される可能性も残る。

 こうした中で、世界日報の社説は、NSC設置法案と特定秘密保護法案はいずれも国民の安全を守るために不可欠な法整備だ。政府は国会審議を通じて両法案の必要性を国民に明示し、今国会での成立を期すべきだ、とする。わが国を取り巻く安全保障環境は近年、一段と厳しさを増している。このような中で国民の安全を守るには正確な情報の収集と分析、そして迅速かつ的確な意思決定が求められる。そうした司令塔が存在しなければ、危機に直面した場合、国民の生活が脅かされる。NSC設置法案は同盟国などからの情報提供を前提としている。例えば、テロ関与が疑われる人物の入国を阻止したり、テロを未然に防止したりするには各国間の情報共有が有効で、関係機関は提携を進めている。ところがわが国の情報保護体制が不十分で、他国から疑問を投げかけられてきた。このままではわが国は情報真空地帯となり、いくらNSCをつくっても機能不全に陥りかねない。新たな情報保護体制が必要となるゆえんだ、と社説は力説する。

 両法案「車の両輪論」をとる読売も、両法案を慎重審議のうえ、今国会の成立を期することに特に異論はなさそうだ。読売は「日本の安全保障が厳しさを増す中で首相に直結した外交、安保政策の司令塔を創設する意義はきわめて大きい」としてNSC法案を評価し、戦略策定強化へ両法案の早期成立を図れと強調している。民主党が特定秘密保護法案に対抗し、国民の知る権利を担保する情報公開法改正案を衆院に提出したことに異議を唱える産経も異論はなさそうだ。

審議阻む時間稼ぎ

 にもかかわらず特定秘密保護法案の今国会成立には読売も△を付け微妙としている。同法案はNSC法案の衆院通過後、同じ特別委で審議されるが、民主党は同党提出の情報公開法改正案との同時審議を要求している。自民党は、秘密保護法案の審議を阻むための時間稼ぎだとみている。国会日程は窮屈だが政府はなおも新たに法案を提出する方針だ。5日提出された成長戦略の柱と位置づける国家戦略特区法案、幹部公務員人事を一元管理する国家公務員制度改革関連法案、さらに婚外子への相続格差規定をなくす民法改正案の提出も予定する。森雅子消費者相が担当する特定秘密保護法案を審議する特別委では外務、防衛などの閣僚が審議に出席する見込みだ。だが衆院外務委では条約・協定、安全保障委員会では自衛隊法改正の審議予定がある。自民党の伊達忠一参院国対委員長は「参院外交防衛委員会は副大臣でも進めたい」と語ったが、野党側が閣僚欠席に応じるかは不透明だ。森消費者相には不安な答弁も多く自民党も手を焼いている

 だが何といっても問題は、朝日が10月26日付の紙面に掲げた「特定秘密保護法案に反対する」という社説だ。法案は、行政府による情報の独占を許し、国民の知る権利や取材、報道の自由を大きく制約する内容だ。その影響は市民社会にも広く及ぶ。今回の法案で示された秘密保護のやり方は、漏洩を防ぐという目的を大きく踏み外し、民主主義の根幹を揺るがすおそれがある。特定秘密の指定期間は最長で5年間だが、何度でも延長することができる。特定秘密を指定するのは、外相や防衛相、警察庁長官ら「行政機関の長」とされているが、何を指定し、どれだけ延長するかは実質的には官僚の裁量に委ねられる。与党との調整で、30年を超えて秘密指定を続けるときは内閣の承認が必要との条件が加わった。それでも第三者がチェックする仕組みはない。要するに情報を握る役所がいくらでも特定秘密を指定でき、何を指定したか国民に知らせないまま、半永久的に秘密を保持できるのだ、という内容。

 さらに10月31日の社説は「盗聴国家の言いなりか」と続ける。ドイツのメルケル首相は私用の携帯電話を長年盗聴されていた。35カ国の首脳の電話が盗み聞きされているという。フランスやスペインでは1カ月に市民の数千万のメールや電話が傍受され、ブラジルでは国営石油企業の通信など産業情報も盗まれていた疑いがある。ほぼ独占しているネット技術などを駆使する米国の身勝手さだ。外交の看板に民主主義や自由をうたう一方、実際は自国の国益を最大限追求し、同盟国さえも広く深く盗聴するという寒々しい現実がさらけ出されたという。

指定延長5年ごと

 毎日も10月26日の社説で「国会は危険な本質を見よ」と秘密保護法案に真っ向から反対している。安全保障上、重要な情報を一定期間、機密として扱うことに反対はしない。問題は、特定秘密として指定された機密が、将来的に国民に公開される仕組みが、法案では担保されていないことだ。閣僚ら「行政機関の長」による指定や、5年ごとの指定延長の妥当性を客観的にチェックできない。行政裁量に任せれば、早く公開されるべき情報や政府にとって都合の悪い情報が表に出ない懸念があるという。毎日記者として外務省を担当、72年に沖縄返還密約に絡む取材で機密電文を外務省事務官に持ち出させたとして国家公務員法違反容疑で逮捕された西山太吉氏も「法律ができれば、5年ごとに特定秘密を更新できる。どんどん更新すれば不都合なものは一切出なくなる。批判を封じ込める秘密国家ができ、行政による情報管理国家になる。日本の民主主義は空洞化してしまう。沖縄密約は最高の政治犯罪だ。東京地裁も東京高裁も認定したにもかかわらず、自民党政権はいまだに『密約はなかった』と言っている。国会でうそをつき続けている現政権に、法律を出す資格はない」と強調する。

 東京新聞も、72年の沖縄返還をめぐる日米密約を著書で取り上げたノンフィクション作家、澤地久枝氏(83)を登場させ「この法律が成立したら、密約の当時よりもっとひどいことになる。憲法がどんなことを定めても全部吹っ飛んでしまう」と憂える。

 特定秘密保護法案については新聞は完全に割れている。最近の国際情勢の厳しさを見て、やはり同盟を結ぶ米国との提携がベターいやベストとしてNSC法案に加えて特定秘密保護法案を車の両輪としてがっちり受け入れるか、それとも憲法の知る権利を重視して型通り「国民の知る権利」「報道の自由」を強調するのか。首相は秘密保護法案について「NSCを機能させるには、どうしても必要」と強調してきたが、7日始まった審議の中でNSCとの関係だけでなく、今の国際情勢の中でどうして秘密保護が重要かを丁寧に答えてほしい。今や衆参両院で多数を持つ安倍首相が強力なひと押しを加えれば成立するのではないか。

 (ジャーナリスト)