「同性婚」容認の第一歩 渋谷区同性カップル条例案の波紋(下)

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同性カップルから要望書を受け取る保坂展人世田谷区長(左)=5日午後、東京都同区

 条例案の議会提出が報道されて以来、渋谷区役所には連日、条例案に対する意見が届いている。「匿名の意見が多く、大量のファクスが送られてくるなど、賛成、反対どちらが多いか、正確には分からないが、届くのは反対が多い」と、区の担当者は語る。

 条例案に反対する理由は、いわゆる「同性婚」と少子化に絡めたものが多い。一方、賛成者は「人権尊重」を挙げるという。

 同性カップルを「結婚に相当する関係」とする「パートナーシップ証明」は、法的効力がなく、婚姻制度とはまったく別の制度と区は説明するが、これは分かりにくい。証明書発行で夫婦に準ずる資格を与えるのだから、婚姻に準ずる制度である。それを「別の制度」とするのは、条例案は同性婚容認につながると受け取る区民や区議会からの批判をかわす狙いがあると見ていいが、結局、同性婚論争に発展している。

 区の作成した資料によると、世界で同性婚を合法化した国は19カ国、パートナーシップ25カ国。同性婚を認める国の多くは、まず条例案に近いパートナーシップを制度化したあと、同性婚合法化に至る。前述の資料作成は、同性婚を認める世界の流れを意識し、わが国もそれに乗り遅れてはならない、という区の問題意識の表れだ。

 実際、桑原敏武区長は「『婚姻は両性の合意のみに基づく』という憲法24条の条文は性的少数者のことを意識せずに規定したのだろう。多様な社会に合った憲法でなくてはいけないと思う」(毎日新聞2月27日付)と語っている。憲法改正も含め、早く同性婚を容認すべきだと言わんばかりである。

 同性婚問題は国会でも取り上げられた。2月18日の参院本会議で「日本を元気にする会」の松田公太代表が同性カップルの婚姻を容認するため、憲法改正を検討するよう提起した。これに対して、安倍晋三首相は「現行憲法下では、同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されていない」とした上で、同性婚を認めるための憲法改正については「わが国の家庭の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と否定的な姿勢を示した。

 その一方で、現行憲法は同性婚を禁じていないと主張する民主党幹部もいる。「婚姻は両性の合意のみに基づく」とした条文は個人の意志の尊重が趣旨という解釈だ。確かに、同じような憲法解釈の学者は存在するが、それは少数派。憲法に関わるパートナーシップ証明書の発行は一自治体の条例ではなく、憲法改正も含めた国民的な議論が必要という意見が大多数だ。

 3月末に予定されている採決は予断を許さない状勢だが、渋谷区が条例案を議会に提出した影響はすでに他の自治体に広がっている。世田谷区では、同性カップルらが今月5日、同性カップルを家族として公的に承認する制度の創設を求める要望書を保坂展人区長に提出。同区長はこれに前向きに対応する考えを示している。神奈川県横浜市も性的少数者の支援を検討する方針を打ち出した。

 もし、渋谷区で同性カップルにパートナーシップ証明を発行する条例が成立すれば、同じように憲法に反し、実質的に同性婚を容認する条例制定の動きは他の自治体に広がる可能性がある。そうなれば日本の家族制度は根幹から崩れることになる。

(「同性婚」問題取材班=編集委員・森田清策、社会部・佐藤元国)