表紙の見栄え 衆院選の劣勢挽回つながるか

政界の風を読むー髙橋利行

オンラインで開催された自民党総裁選候補者の政策討論会に参加する(左から)河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=26日午後、東京・永田町の同党本部

オンラインで開催された自民党総裁選候補者の政策討論会に参加する(左から)河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=26日午後、東京・永田町の同党本部

 表紙を替えても中身が変わらなければだめだ。そう正論を叩きつけて、竹下登から後継総裁になってほしいという要請を蹴ったのが伊東正義である。政治家ならば誰でも咽(のど)から手が出るほど欲しい宰相の座である。いかにも会津っぽらしい硬骨漢と持て囃(はや)された。

 だが、表紙だけでも替えたいというのが宰相・菅義偉の後継争いである。コロナとの戦いに敗れ、不評極まりない宰相のままでは衆院選に負け野党に転落する。それだけは真っ平御免蒙(こうむ)りたい。冷や飯を食うのは堪(たま)らない。それどころか権力を手放せば、今度こそ自民党は空中分解しかねない。

 9月29日に投開票される自民党総裁選は、そういう危機感の中で行われる。「団栗(どんぐり)の背比べ」などと言うこと勿(なか)れ。河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子と揃(そろ)うとなかなか見応えがあるじゃないか。先行する河野に岸田がじりじり肉迫、さらに牝馬の高市が外枠から鋭い差し脚で追い掛け、もはや上位3人はクビの差から鼻の差、あるいは横一線と言えるところまで来ているらしい。

 自民党総裁選は凄(すさ)まじい歴史を持っている。半世紀前の池田勇人が3選を果たした総裁選(1964年)では、今に伝説として伝わる生一本、ニッカ、サントリー、オールドパーという戦いが展開された。お酒の味比べではない。親分にひたすら尽くす、対立する2陣営からちゃっかりカネを貰う、あるいは3陣営からせしめる。すべての陣営から満遍なく頂戴する。公職選挙法の埒(らち)外だから、信義には反するにしても罪には問われない。やりたい放題である。

 この池田3選を嚆矢(こうし)として総裁選はカネやポストの約束が飛び交う「悪の元凶」(三木武夫)になった。頂点に達したのは佐藤栄作の後継争いだった。本命と目された福田赳夫に田中角栄がカネの力で挑み栄冠を勝ち取ったのである。いかにして、この金権体質を改革するか。そこで国会議員だけでなく、自民党員・党友を加える「予備選」が導入された。キャッチフレーズは「あなたにも総理大臣が選べます」。

 本当に党員・党友が宰相を決めたこともある。初めて行われた総裁予備選(1978年)で宰相・福田赳夫は自信満々、「全国、津々浦々で福田、福田の声がする」と語り、予備選で敗れれば国会議員による本選を辞退すると言明した。そして予備選で敗れ本選を辞退した。河野太郎の父、河野洋平が橋本龍太郎と相まみえた総裁選では、党員・党友投票で劣勢を知った河野が途中で棄権している。逆に、党員・党友投票の結果を国会議員による投票で覆したのが安倍晋三と石破茂が争った総裁選(2012年)である。そうなると、果たして党員・党友投票の意味はどうなるか。党員集めに奔走した地方議員が衆院選や参院選にそっぽを向いてしまう。若手議員は地元で突き上げられたのである。

 今度の総裁選は1回目の投票で過半数を制する候補が出なければ、上位2人について国会議員による決選投票が行われる。河野、岸田、高市が競り合っているので勝負の行方は渾沌(こんとん)としている。それぞれ後ろ盾になっている安倍晋三、麻生太郎、二階俊博は手練(てだれ)である。奥の院には河野洋平、古賀誠、青木幹雄という古強者も鎮座している。

 首班指名を受けて宰相になっても前途は多難である。コロナの第6波襲来が囁(ささや)かれている。そして菅義偉が果たせなかった解散・総選挙を断行、衆院選を乗り越えなければならない。幸い、菅義偉が罪を一身に背負ってハラを切ってくれたお陰で自民党は奈落の底から這(は)い上がっているらしい。一時、現有議席(275議席)から70議席も激減するのではないかとみられたが、どうやら20~30議席減に留まると言われている。

 だが、コロナ禍を封じ込めるロックダウン(都市封鎖)などは、個人の人権に触れる強制措置を立法化しないわけにはいくまい。そうなると過半数(233議席)では足りない。各委員会で委員長を取って半数を占める安定多数(244議席)が必要である。さらに参院で否決された法案を衆院に回付して再議決するには、憲法第59条によって衆院で出席議員の3分の2以上の賛成が必要となる。厳しい国会運営の先に待ち受けているのが来夏の参院選である。有力議員がぞろぞろと衆院に鞍替えするようでは困る。斯(か)くして新総裁の前途には棘(いばら)の道が続くのである。

(文中敬称略)

(政治評論家)