伝統的家族守る高市氏 「賛成」の河野・野田両氏
【選択的夫婦別姓・同性婚】
家族政策など価値観が問われるイシューで、自民党のリベラル化が進み、保守政党としてのアイデンティティー喪失が進んでいることを顕在化させる総裁選になっている。
今も保守層に人気の高い安倍晋三氏は首相当時の国会で、「同性婚」を認めるべきだと迫る野党議員を、「憲法は同性カップルの婚姻を想定していない」と一蹴したが、今総裁選では、複数の候補が同性婚に「賛成」を明言するなど、リベラル姿勢を強く打ち出している。
例えば、河野太郎氏。立憲民主党が次期衆院選で、「選択的夫婦別姓」と同性婚の制度化を自民党との対立軸に掲げる中、報道各社のインタビューで、この二つのイシューに「賛成」を明言。「価値観が問われる問題は、党議拘束をやめて、広く議論するのがいい」と述べている。
党の岩盤基盤である保守の有権者や、保守派議員が反発すると知りつつ、あえて「賛成」の立場を打ち出すのは、保守票を失うリスクより若手議員・党員を中心に広がる〝リベラル票〟を獲得できるメリットの方が大きいと踏んでいるからだろう。
オフィシャル・サイトで「『多様性社会』を目指す」とアピールする野田聖子氏は、筋金入りの夫婦別姓推進派。同性婚の制度化を目指す団体に応援メッセージを送るなど、同性婚も支持する。
私生活では、米国人女性から卵子提供を受けて10年前に出産、障害を抱える息子を育てる。この実体験もあって「多様な家族形態があっていい」と訴える。「先祖を敬い、子孫に未来を託すことは、最低限の使命」(著書『生まれた命にありがとう』)と、「保守の精神」を強調するが、同性婚まで支持しては、もはや保守とは言えまい。
今年春、「選択的夫婦別氏(姓)制度を早期に実現する議員連盟」が設立総会を開き、派閥横断で100人余りが参加した。その呼び掛け人の中に、野田氏と共に岸田文雄氏が名を連ねた。
だが、 岸田氏は総裁選告示後のNHK討論番組で、結婚によって姓を変えることで「実際に困っている人がいる」との認識を示しつつも、夫婦別姓では「複数の子供がいた場合、いつ誰が姓を決めるのか私自身の整理が付いていない」と、保守派を意識してか、慎重な姿勢を見せた。同性婚についても議論は認めても「同性婚を認めるところまで至っていない」と語るにとどめる。
夫婦別姓推進派が設立総会を開いた1週間後、保守派を中心にした党有志が「結婚前の氏の通称使用拡大を促進する議員連盟」の設立総会を開き、約150人が参加した。中曽根弘文元外相、山谷えり子元拉致問題担当相らと共に、呼び掛け人となったのは高市早苗氏。月刊誌に発表した手記で、夫婦別姓に反対する理由として、子供の姓の「安定性」が損なわれることを挙げた。
夫婦同姓を規定する現行法では、生まれた子供も同じ姓になるから問題は起きない。しかし、夫婦別姓になると、岸田氏も指摘するように、子供の姓をめぐって家族に軋轢(あつれき)が生じることにもなりかねない。
夫婦別姓でさらに問題なのは、これまでの「家族の呼称」としての姓が「個人の呼称」に変わってしまうことだ。だから、高市氏は夫婦同姓を維持しながら、結婚による改姓で生じる不便は、通称使用の拡大によって解消することを主張する。同性婚に対しても、結婚・家族観という社会の根幹に関わるという認識から慎重な姿勢を示す。
安倍氏の強い支援もあって、高市氏の善戦が伝えられている。家族に関する他候補のリベラル政策に対する、伝統的な「家族の絆」を守ろうとする保守派の危機感の現れであろう。党のリベラル化に拍車を掛けるのか、それとも保守政党としてのアイデンティティーを守るのか。「ポスト菅」をめぐる戦いは、自民党だけでなく日本の未来にも関わる問題だ。
(森田清策)






