目指す「国のかたち」深めよ 改憲戦略を示さない4氏
【憲法改正】
17日告示29日投開票の自民党総裁選は後半戦に入り、河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の候補者4人は精力的にアピールを続けている。焦点となる政策について検証する。
日本人1億2521万人の命運を握る次期首相(党総裁)になろうとする以上、どのような国のかたちを目指すのか、明確な考えや信念が必要だ。それは、おのずと結党以来の党是である憲法改正にどう向き合うかに反映される。残念ながら、憲法改正をめぐる論議は全く深まっていない。
告示日の所見発表演説会で、憲法改正に言及したのは高市氏だけ。それも「時代の要請に応える新しい憲法の制定にしっかり力を尽くす」という意思表明にすぎなかった。
その後の記者会見や討論会でも4氏は、安倍晋三総裁時代に決定した4項目(憲法9条への自衛隊明記、緊急事態対応、合区解消、教育充実)のたたき台素案への賛同は示すが、改憲への強い意志や具体的な戦略を垣間見ることはできない。
河野氏は17日の共同記者会見で、4項目を挙げた後に「野党も提案があるのだろうから、持ち寄って国会でしっかりと議論し、まとまったものから進めていくのが大事だ」と述べた。これは当然の手順を述べただけで、憲法審査会での審議すら反対する共産党や、公職選挙法改正を反映する国民投票法改正を約3年も引き延ばした立憲民主党などが待ち構える国会の現実を無視した話だ。必要なのは、国会で改憲原案の合意を導き出すための戦略や具体的な打開策のはずだが、それは一切示されなかった。
また、立候補前に出版した著書で、災害や感染症への対策について1章を割いているが、緊急事態条項など憲法問題への言及は一切なかった。18日の日本記者クラブの公開討論会でロックダウン法制化と憲法との関係を問われた際も、「憲法論議より国会できちんと審議し法案を作ることが大事」だと述べている。
高市氏も同じ質問に対し、憲法論議より与野党合意による法案整備が現実的だとの意見を示した。所見発表で憲法改正に言及しただけでなく、著書や討論会で「憲法が足かせになって必要な法整備ができないことが多々起きている」と吐露している。特に国民の命を守る法案作りのために、憲法改正の必要性を訴える高市氏も、喫緊の課題に対応する法整備のためには、憲法論議を棚上げせざるを得ないのが現実なのだ。
岸田氏は17日の共同会見で、4候補の中で唯一、「少なくとも任期中に(改憲の)めどはつけたい」と改憲スケジュールに言及した。ハト派で「平和憲法」に強いこだわりを持つ宏池会の代表だが、9条改正を含む4項目の改憲素案については、リアリズムに立って「許容範囲内」と判断し、安倍氏と共同歩調を取ってきた。ただ、改憲実現に向けた具体的な方策は示さず、政調会長時代に地方政調会で憲法改正について市民と対話した際、「ものすごい手応えを感じた。国民投票につなげるために、こうした理解を広めていきたい」と述べるにとどまる。
野田氏は、17日の記者会見で「憲法改正はする立場」「党の人間だから4項目は了承している」と表明したが、改憲に向けて「4項目にこだわらず広く国民の意見を頂きたい」と述べるなど、国民を持ち出して自ら目指す国のかたちを示す責任を放棄している。
新型コロナ対策やアフガニスタン邦人等退避作戦、台湾・尖閣有事など、現行憲法が足かせになって十分な法整備ができず、国民の生命・財産、領土領海領空、国の品格を守るという国家の最低限の責務すら果たせない状況が現実化している。憲法改正は喫緊の課題なのだ。
(武田滋樹)






