反安保「赤旗」の世論戦 “過去の政府”で現政権批判
変節した憲法学者が共闘に
もともと反自民、反米反安保、自衛隊違憲解消論の共産党が安全保障関連法案に反対しないわけがない。戦後の安保政策の大転換であった1954年の自衛隊発足、91年以降の自衛隊海外派遣に反対し、当時も政府の安保政策を認めたことはない。
ところが今回は、従来の憲法解釈(個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権は行使できない)で行われた過去の政府政策に立つかのように政府案を追及している。そう見えるのは、機関紙「しんぶん赤旗」(日刊・日曜版)で法案を批判する自民党OB、官僚OBが登場するためだ。
「しんぶん赤旗」7月19日付1面は「戦争法案阻止へ 空前の国民的たたかいを」の見出しで「日本共産党創立93周年記念講演会」での志位和夫委員長の講演を扱ったが、ここに「憲法学者の小林節さん、作家・僧侶の瀬戸内寂聴さんが、日本共産党へ期待のビデオメッセージを寄せました」(リード)とある。
3面に写真入りでメッセージが載るが、社会党ありしころ社会党寄りと思われた瀬戸内氏はともかく、民主党機関紙にも登場する小林氏はもとは改憲派憲法学者で著作も多く、かつて筆者が取材した自民党議員が参加する改憲派の大会に登壇もしたことがある。
小林氏は、「僕は全然、共産党に抵抗ないもん。だっていま、憲法擁護とか国民というレベルで考えたらね、共産党はいちばん頼りになります。ぶれないもん。僕もぶれないけど、共産党もぶれないじゃないですか。……いま共産党、頑固な共産党があってくれるおかげで、私などは憲法擁護のたたかいがとてもやりやすい」と語っている。小林氏はしっかりぶれており、とんでもない変節ぶりである。
同紙7月21日付には志位氏の講演全文が載るが、政府・自民党OBの法案批判に引用したのは山崎拓元自民党幹事長、宮崎礼壹元法制局長官、大森政輔元法制局長官、阪田雅裕元法制局長官、柳沢協二元官房副長官補(同紙表記)らだ。講演文では、戦後70年の平和が守られたのは「多くの憲法学者や国民が、自衛隊は違憲という当然の常識をとなえ」たからで、「日米安保条約と自衛隊の力」によるものではないと述べており、上記の人々とは最近まで“鋭く対立する”間柄だった。
結局は、従来の政府憲法解釈を利用しての反安倍ドミノ戦略であり、いわば政権側OBら“過去の政府”と安倍首相の現政府とを離間させて漁夫の利を得る作戦であることは明白だ。講演文の結びには「思想・信条の違いを超え、国民の願いにそくした一致点にもとづく共闘――『一点共闘』を発展させ、時には縁の下の力持ちになって頑張りぬく」と統一戦線形成を表明している(「国民の願い」は「共産党の願い」に置き換えられるだろうが)。
共産党が縁の下で働きかけて改憲派だった憲法学者も「憲法擁護のたたかい」で記者会見の脚光を浴びたのだろうか。共産党にとっては「国民の反対」を演出する仕掛け、さまざまなデモや有名人による反対表明などをマスコミに反映させる世論戦が重要なのだ。
解説室長 窪田 伸雄





