国の安寧害する教科書批判
NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長 久保田 信之
領土を教えるのは基本
卑屈な共産党や過激派
文科省は、教師が学習指導要領の内容を的確に教えるための「手引書」として「学習指導要領解説書」を発行しているが、今回のように「改定時期ではない時」に発行したことは極めて異例である。われわれは安倍内閣の意気込みを汲み取る必要があると思う。
今回なされた改定の特徴的なところは、事なかれ主義の政治姿勢では避けて通ってきた「領土に関する教育の充実」を改めて強調した点である。
具体的にいうと、中学校「社会」の「地理的分野」ならびに「歴史的分野」、そして「公民的分野」すべてにおいて、改定前にはなかった「尖閣諸島」を「わが国の領土・領域」であることを具体的に記述し、「北方領土や竹島」についても、わが国の固有の領土であるとの結論にいたる経緯を明らかにしている。わが国の基本認識を明確にしたのち、残念ながら、これら日本の固有の領土が、ロシア連邦と韓国によって不当に占拠されている現情にふれ、北方領土についてはロシア連邦にその返還を求めていること、竹島については韓国に対して抗議していることなど、平和的な努力を表記して、教育を通して、わが国の主張と解決への努力について理解するよう求めている。
一方、高等学校「地理歴史編」(日本史AおよびB)についても「わが国が当面する領土問題については、北方領土や竹島はわが国の固有の領土であることを明確にし、それぞれが現在ではロシア連邦と韓国によって不法に占拠されている現状の理解を求め、北方領土についてはロシア連邦にその返還を求めていること、竹島については韓国に対して累次にわたり抗議を行なっていることなどについて、我が国が正当に主張している立場を踏まえて、理解を深めさせることが必要である。尖閣諸島については、わが国の固有の領土であり、また現にわが国がそれを有効に支配しており、解決すべき領土問題は存在していないことについて理解を深めさせることが必要である」と、我が国の基本方針を明確に打ち出している。
今般、安倍政権が打ち出した学校教育に対する「手引書」の内容に、多くの日本人は素直に共鳴し、このような歴史認識を基盤に置いた「自国の固有の領土について教えることは、国家として当然である」と支持すると思う。
とは言いながら、ロシアや韓国、中国からではなく、日本の中で「激しい反対論」が展開されているというのだから困った国になってしまったものだ。
特に、従来から教育問題に強い関心を示し、我が祖国を、命を賭けて支えてきた先人の努力を事あるたびに「他人事」として批判し、さかんに「利敵行為」を繰り返してきた過激派の革マル派は、同派の機関誌「解放」第2306号に「“戦争に民衆を駆り立てる”ために“尖閣は中国との攻防戦における『日本の生命線だ』と生徒たちに教え込もうとしているのだ」と、安倍内閣は言うまでもなく、一般人の心情とも大きくかけ離れた「独断的な一文」を掲載しているのだ。
その幾つかを拾い出してみると、「文科省の手引き」を「これぞ『国(=権力者・支配者階級)のために進んで命を投げ出す精神』を生徒たちに叩き込む教育だ」と激しく糾弾して「中国や韓国に対する排外主義を煽りたてながら『領土ナショナリズム』を鼓舞し、戦争をやれる国の一員として国民を統合しようとしているのだ」と、独特の拡大解釈を展開して、酷評しているのだ。
かく言う革マル派の勢力が今や地に落ち、たいした影響力がないことは承知している。さらには日教組や全教などの教職員団体、出版労連や「子どもと教科書ネット21」などの共産党色の強い団体からは、今のところさしたる反応もないのだから、如何に革マル派が激しく批判したからといって「体制には影響がない」と無視することもできよう。
しかし、「中国や韓国の人民が猛反発することを承知の上で安倍政権は、挑発的に『解説書』の改定に踏み切った」とか「日露戦争に突入した天皇制国家が韓国の外交権をも剥奪した上で行なった竹島編入だ……」とか「侵略戦争と植民地支配を強行したかつての天皇制国家による版図拡大を肯定している」等々、先人が命賭けの努力をしてくれたお陰で己自身が生れ育ったというような歴史認識、否、事実認識すら持っていない発言で溢れている。さらに情けないことだが、中国・韓国に不快な思いをさせて「叱られないように」配慮すべきだ、との卑屈な属国意識も露呈しているところに注目したい。こうした「中国・韓国が反発してくるようなことは言うな」といった、素朴な情緒的な心情は、多くの日本人が共有しているように思う。
激しい言動を取るか否かではなく、「自虐史観と臆病者の属国意識」は、現在の日本人の心に大なり小なり巣くっている『癌細胞』ではなかろうか。その除去が不十分である証拠に、こうした「国安ヲ害スル」(1881年「国会開設ノ勅諭」より)発言が後を絶たないのだ。
中国・韓国が「いじめ」をやめないのも、ここに原因があるのだ。我々は己の心と謙虚に静かに語り合い、この厄介な『癌細胞』を増殖させないよう努力すべきだ。
(くぼた・のぶゆき)





