米、南シナ海で比防衛約束
ポンペオ米国務長官は、南シナ海の領有をめぐって対立する中国がフィリピンの船舶などを攻撃した場合、米比相互防衛条約に基づきフィリピンを防衛することを約束した。これまで米国は、南シナ海を同条約の適用対象とは表明しておらず、海域での実効支配を強める中国を前に方針を転換した格好だ。
ポンペオ氏は今月初め、フィリピンを訪問し、ロクシン外相と会談した。記者会見で、中国が南シナ海に造成した人工島がフィリピンの主権、安全、国民生活を脅かしていると警告。「南シナ海は太平洋の一部であり、フィリピンの軍、航空機、船舶が武力攻撃を受ければ、相互防衛条約第4条に基づく相互防衛の義務が発生する」と、フィリピン防衛を表明した。
防衛条約は、「太平洋地域」で米比どちらかの国が武力攻撃を受けた場合、他国がこれに対処することを義務付けているが、これまで米国は、南シナ海が同条約に記された太平洋の一部とは表明していなかった。
防衛条約の適用範囲が拡大されたのは、中国の覇権拡大を懸念する周辺国への支援強化を目指すトランプ政権の政策の一環だ。
中国は2010年半ば以降、フィリピンに近い南沙(英語名スプラトリー)諸島、ベトナムに近い西沙(英語名パラセル)諸島の島々の13平方㌔の領有を主張し、両国と対立。国際仲裁裁判所が違法と判断したにもかかわらず、南シナ海の90%を自国の領海と主張している。さらに、格納庫など軍事施設の建設を開始、18年4月までにパラセル諸島の一つの島、スプラトリー諸島の三つの島に対空・対艦ミサイルを配備するなど、軍事化を進めている。
ロクシン外相はポンペオ氏との会談後、「米国は対処してくれると確信している」と米国への信頼を表明した。
南シナ海は年間約5兆㌦の物資が行き交う戦略的に重要なシーレーン(海上交通路)だ。インド太平洋軍のデービッドソン司令官は昨年、中国が南シナ海で軍を増強したことで、このシーレーンのほとんどが支配されてしまったと警告した。
米中央情報局(CIA)東アジアミッションセンターのマイケル・コリンズ副所長代理は、中国が領有を主張している島々について、ロシアによるウクライナのクリミア半島占領にたとえて「東のクリミアだ」と非難した。
米当局者は、方針転換でいい一歩を踏み出したと指摘した。米国は今後も、この海域の防衛と米軍の駐留などへの支援を強化するようフィリピン政府に働きかけるべきだ。
一方でこの当局者は、東シナ海の尖閣諸島での米国の防衛義務について、南シナ海とは事情が異なると指摘した。日本政府は尖閣諸島を管理し、中国が空と海から頻繁に接近、侵入しても、防衛する用意がある。
また、南シナ海は、中国、フィリピン、ベトナム以外にも、マレーシア、台湾、ブルネイが領有を主張している。
太平洋艦隊の元情報部長ジム・ファネル氏は、ポンペオ氏の発言について、「フィリピンとこの地域内の国々の米国への信頼を取り戻そうとしており」、オバマ前政権からの「劇的で歓迎すべき変化だ」と高く評価した。中国が12年4月~6月、フィリピンの東約240㌔にあるスカボロー礁に艦艇を派遣したことを受けて、当時のアキノ比大統領は防衛条約の発動を米国に求めたが、米国務省は要請を無視した。以後、スカボロー礁は中国の支配下にある。ファネル氏は、「12年にスカボロー礁で大変な失敗をした」とオバマ政権の対応を非難した。






