アジアでもミー・トゥー 魔男狩り、政治利用ない前進を

山田 寛

 米ハリウッド発の運動、性暴力・セクハラ告発の「ミー・トゥー」(#Me Too)は、アジアにも広がり出したな。先日、国際人権NGOのシンポジウムに参加してそう実感した。

 会場は300人近い参加者で満員。インドの女性人権活動家や、準強姦(ごうかん)被害を訴え、日本のミー・トウーの先駆になったジャーナリスト、近親性暴力の被害者で刑法改正に取り組む女性らが熱弁をふるった。

 インドのナンディーニ・ラオさんは長年、女性への暴力に満ちた階層社会の国で苦闘してきたが、そこでも変化が生じた。5年前、首都で女子学生がバスの中で乱暴され、車外に放り出されて死亡した事件の後、女性や若者が「もう沢山だ」と激しい抗議デモを展開した。その結果、法改正でレイプへの刑罰が重くなり、セクハラ禁止法などもできた。その後、刑事統計でレイプ件数がむしろ増加したのは、被害者がより事件を告発する様になったからでもある。そこへ今ミー・トゥーの影響も出てきた。

 ジャーナリスト、伊藤詩織さんは、元民放ワシントン支局長からの被害を訴え、検察審査会でも不起訴にされたが民事で争っている。内外メディアで脚光を浴び、告発本も出版した。「ミー・トゥーが言い難いなら『ウィー・トゥー』(We Too)の集団力で」と、近く新キャンペーンを開始し国連委イベントでも講演する予定という。ファイト旺盛だった。

 韓国でもミー・トゥーだ。女性の詩人、俳優、検事、看護師、社員が、業界の大御所、上司、男性同僚らをやり玉に挙げた。「堅固な男社会の韓国でも遂に」と米紙は報じた。

 実際、日韓印3国の男女間格差は大きい。ダボス会議主催機関「世界経済フォーラム」が毎年、保健、教育、経済、政治の4分野の男女平等度ランキングを発表している。最新17年版によれば、調査対象の144カ国中、108位がインド、114位が日本、118位が韓国。アジアでも3国とブータンがワースト4である。

 一国の人口比のレイプ被害率は、この男女間格差と関係ないようだ。途上国の被害届け率の低さもあり、レイプ高率国リストには、米、英、カナダなども名を連ねる。だが、セクハラを初め広範な女性への暴力とか、被害女性が声を上げ、周囲や社会がそれを応援するかとなると、やはり男女間格差が強く関係する。

 ミー・トゥー運動は応援したい。私も30年前のパリで、取材が縁で、フランスで初めて誕生した「職場の女性への暴力に反対する会」の賛助会員だった。「女が闘う社会の方が闘わない社会より健全」という会員たちのモットーに共感していた。その欧米でもまだミー・トゥーが必要なのだから、道は遠い。

 だが注文もつけたい。

 被害者側は絶対正しく、加害者(と見なされる)側は絶対誤りと頭から決めつける“ミー・トゥー原理主義”、魔女狩りならぬ“魔男狩り”(被害者の大半が女性なので)に陥らないよう。アクセルだけでなく時にブレーキも踏んでほしい。伊藤さんの場合も、刑事事件不起訴という事実は厳存する。

 また、政治の争いにできる限り絡まないよう。性暴力糾弾ムードの政治利用で、「慰安婦少女像」大増設の企てなどが出たら、それもノーである。

 そして、SNSで声を上げられない膨大な数の被害者がいる。

 ラオさんも「自分はインドのごく一部の代表」と認める。

 災害後のハイチ、内戦のイエメンや南スーダン、ミャンマーから追い出されたロヒンギャなどの女性も、酷(ひど)い性暴力を受けている。そんな「ゼイ・トゥー」(They Too)も忘れまい。

(元嘉悦大学教授)