左派だからできること、文在寅大統領へのご提言
文在寅・韓国大統領殿。私たち日本人の多くは、新政権の韓国が親北宥和より日韓米協力を進め、国際的信頼を高めて行くよう願っています。
それに関連し、一つ提言させていただきたいのです。1964~73年に、ベトナム戦争に参戦した延べ約30万人の韓国軍の行為に関することです。
1970年代の同戦争末期、新聞の現地特派員だった私は、地方の村で時折こんな体験をしました。幼児が私を見て韓国人が来たと思い、「ダイハーン」と叫び、怖がって逃げて行くのです。不思議でした。
当時、本多勝一という花形記者が、詳細なベトナム戦争ルポを著した中で、韓国軍の民衆への態度は最優秀だとし、「韓国軍は99%正しい。だが(ベトナムにいること自体)100%間違っている」と書いていました。後段は、彼が民族解放戦争を絶対的に支持していたからでしょう。
ところが90年代以降、日韓民間人の調査で、韓国軍による戦場の村々での大量虐殺、強姦、略奪などが判明しました。2013~14年に詳細な現地調査をした北岡俊明、北岡正敏両氏によると、韓国軍は当時の南ベトナムの約100か所で、推計1万人以上の民衆を虐殺したというのです。現地には、犠牲者名を刻んだ慰霊碑、壁画などが多数建立されているのです。
冷戦只中の自由、共産両陣営の対決で、米国に協力した韓国の参戦が100%間違っていたとは、私は思いません。でも、その行為は99%正しいどころか、60点以下の落第点でしょう。
韓国でも90年代前半、韓国兵の村民虐殺場面も含む、優れたベトナム戦争映画が作られたし、90年代末、左派週刊誌「ハンギョレ21」が事実を報道しました。最近、日本軍慰安婦を表す少女像の作者夫妻の手による、ベトナム人犠牲者慰霊像が、民間の財団によって、ダナン市博物館に贈呈され、済州島にも設置されたようです。
だが、こうした左派の動きは親北政治攻勢とも見られ、退役軍人会など右派は猛反発、ハンギョレ新聞社襲撃事件も起きました。
韓国政府は、98年以降の金大中、廬武鉉両左派大統領が、簡単な謝罪の言葉を口にしましたが、当時の朴槿恵・野党代表らが強く抗議し、結局あいまいになりました。ベトナム参戦を決めたのが実の父親だけに、朴氏は大統領になりベトナムを訪問した時も、黙したままでした。
しかし、左派の文大統領はきちんと謝罪できるはずです。ベトナムの慰霊碑を訪れ、頭を垂れれば、1971年、ブラント西独首相がワルシャワのユダヤ人犠牲者追悼碑前で跪(ひざまず)いたのと同種のインパクトを、国際社会に与えるかもしれません。
ベトナム政府は今の経済協力を重視し、元敵国に謝罪を求めませんが、北岡氏らによれば、虐殺現地の村々には韓国への恨みが強烈に残り、「子々孫々まで語り継ぐ」と言っていたそうです。
「日本の慰安婦問題を『中和』させたくて、口を出してくるのか」との声も聞こえそうです。そうではない。韓国自身の歴史問題です。でも日韓関係と無縁ではない。韓国は自身の問題は頬被りし、中国には何も言わず、日本にだけ歴史を直視せよと言うといった不信感が、日本世論に広がっています。またゴールポストを動かすだけでは、日韓関係は悪化の一途。日韓米協力も機能しないでしょう。
韓国の子や孫は、ベトナムでの虐殺を全く教えられず、ベトナム現地の子や孫は、恨み続ける。それで将来、信頼される韓国ができるでしょうか。韓国はきちんと謝ったと、歴史の頁に書き記す時だと思うのです。
(元嘉悦大学教授)







