中国拡張主義担う人民解放軍

ビル・ガーツ氏

 

 ポンペオ米国務長官の中国政策補佐官で、国務省の対中政策の立案者として知られるマイルズ・ユ氏は、人民解放軍(PLA)が中国共産党の権力を維持するという従来の役割を越えて、世界への拡張主義の中核を担っていると指摘した。

 ユ氏によると、PLAでは従来、国内の治安の維持がその主要任務という考え方が支配的だった。1989年の大規模な民主化要求デモへの武力鎮圧がその一例だ。

 ユ氏は、カナダのシンクタンク、マクドナルド・ローリエ研究所が開催したウェブ会議で「PLAの役割は今や世界に及び、これまでよりはるかに洗練され、実践的となっている」と指摘。その上で「PLAは、党の武装部隊全体の名称であるだけでなく、情報収集、企業進出、ハイテク輸出のための世界的複合体でもある。中国の軍民の技術転用、軍民の融合で非常に重大な役割を担っている」と強調した。

 PLAは、中国による世界各地の港湾施設の獲得に重要な役割を果たしてきた。これらは「真珠の首飾り戦略」と呼ばれ、軍民両用の拠点網の構築に利用されている。中国の国営海運会社は、ギリシャのアテネ近くにある欧州最大規模のピレウス港、ベルギーのゼーブルッヘ港など、少なくとも十数カ所に権益を所有している。

 また、PLAは攻撃的なサイバースパイ活動を実施しており、米国のネットワークに大規模なハッキングを実行していると非難されてきた。

 ユ氏によると、さらに、通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)などを通じた通信ネットークの支配でもPLAは重要な役割を果たすことが可能だという。

 ユ氏は「ファーウェイのCEOは、PLAの元情報将校だ」と指摘、PLAがファーウェイや世界中の通信ネットワークを通じて広範囲に影響力を持つ可能性があることを示していると強調した。

 陸軍が主体のPLAだが、近年、海軍力を強化しており、アフリカ西部のジブチに海外初の軍事基地を持つなど、海外の戦略的拠点の整備を進めている。この基地からは、紅海を通る海運ににらみを利かせることが可能だ。

 またPLAは最近、複数の艦艇を地中海、黒海に派遣した。かつて中国艦艇が進出したことのない海域だ。ユ氏によると、中国の習近平国家主席は、宇宙、サイバー、深海、北極圏を四つの重点領域として、PLAの能力強化を進めている。

 米国防総省は「(中国共産党は)PLAを国政の実用的な道具にし、中華人民共和国(PRC)の外交政策の推進に積極的な役割を果たさせようとしている。とりわけ、ますます強まっているPRCの世界への関心と国際秩序の変更という目標に関する役割を強化することを目指している」と指摘している。