太平洋クロマグロ禁漁を
2.6%に激減した親魚量
科学的根拠で漁獲量設定せよ
本年に入り、太平洋クロマグロの漁業と一部定置網漁業や小型漁船漁業での漁獲を禁止するなど資源管理の手法をめぐり、水産庁と漁業者の対応が混乱している。水産庁は根本的ではなくその場しのぎの対応で、漁業者を沈黙させるため補助金も多用している。このような行政では、漁業を疲弊させ、経済自立心を失わせ、一般の産業からほど遠くさせ、地域コミュニティーとしての漁村は破綻する。国民の税金の無駄遣いである。
乱獲の代表的な魚種である太平洋クロマグロの漁獲の増加が少しでもあると、客観的な証拠も科学的根拠もなく、資源は回復したと主張する漁業者に対し、圧力に弱い水産庁は、本来禁漁水準のクロマグロ漁業を許可し、その行政政策の非科学性を露呈している。
2017年10月、北海道函館市南茅部の定置網で北海道の漁獲枠の10倍の約540トンのクロマグロを漁獲したことに対し、一時、西日本の漁業者らは「北海道が獲るなら俺にも獲らせろ」と主張した。最近では水産行政は他の漁業者に漁獲を放棄させる代わりに漁業共済(補助金)をばらまく。これでは金目当ての休漁で、資源管理の思想が醸成されない。
しかも、漁獲枠の10倍の漁獲があっても、水産庁や北海道庁が監視やモニタリングを強化している様子がない。漁獲量の報告は漁業者の団体である漁業協同組合任せである。そして一体何を政策の柱にしているのかが不明瞭である。政策の柱は①科学的根拠に基づく持続的漁業②儲(もう)かる漁業の達成―の2本であるべきである。
ところで、日本人がマグロを本格的に食べだしたのは戦後の高度経済成長期、サラリーマン家庭の所得が向上し、水産物のコールドチェーンが発展し、刺し身マグロが流通可能になってからだ。さらに、バブル経済時代にクロマグロ需要が拡大した結果、地中海沿岸諸国が巻き網で大量漁獲した。日本の輸入商社が買い付け、日本へ輸出したので、大西洋クロマグロ漁業が厳しく漁獲規制された。
その結果、大西洋クロマグロに代わり、太平洋クロマグロに漁獲の目が向き、すぐに乱獲状態になった。現在の産卵親魚量(資源の評価の基準となる指標)は漁業が始まる前の産卵親魚量のわずか2・6%しかない。世界の科学基準では当然に禁漁であるが、それでも禁漁になっていない。これは水産庁が、真の科学的根拠に基づく資源管理の実施を怠っているからである。現在の規制は2002~04年の漁獲水準を超えない、などという実効性のないものだ。巻き網漁船や小型釣り漁船により稚魚が捕獲され、海中生簀(いけす)での養殖が行われる。17年はその養殖生産量が1万5800トンの史上最高に達した。稚魚の取り過ぎである。
このようにして大量の生エサ(小魚)を投与して成長させた養殖マグロ、巻き網や定置網での漁獲された小型魚が安価で大量に回転寿司や大衆寿司チェーンとスーパーマーケットに供給される。この消費形態が、クロマグロ資源悪化の主因である。漁業者、行政と流通関係者とさらに消費者にも問題がある。
基本は科学に基づく資源管理である。太平洋クロマグロも総漁獲量を科学的な根拠に基づいて設定することである。わが国も成熟した責任ある漁業国と消費国になるべきである。わが国が率先して、太平洋マグロ類を条約の対象であり管理の対象とする「中西部太平洋まぐろ類漁業委員会」(WCPFC)のクロマグロ管理に関する北小委員会で、科学的根拠に基づく禁漁を含む総漁獲可能量(TAC)の設定に一刻も早く合意して、資源が回復するだろう3年後の漁業の再開に導くことが、最も効果的な政策の方向である。
マグロ類の漁業管理をその目的ならびに機能とする地域漁業機関で現在有効に機能している機関として、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)とみなみまぐろ保存委員会(CCSBT)があるが、どちらも資源評価を実施して生物学的許容漁獲量(ABC)を定め、さらにそれに基づいてTACを設定している。WCPFC委員会はABCとTACを決定できずにおり、資源の管理措置が不十分である。最も問題が重大なのがクロマグロである。
昨年12月マニラで開催された委員会では日本人が好むカツオ、メバチマグロとキハダマグロについて検討されたが、日本の代表団は日本周辺海域へのカツオ資源の来遊が著しく減少していることが問題であると表明した。
しかも、日本代表団は初期産卵資源量の2・6%しかないクロマグロについては無理やりに漁獲を認めさせ、初期産卵資源量の50%もあるカツオに厳しい規制措置を求めた。この姿勢は、科学的根拠に基づいた持続的利用の原則を外れている。いわゆるダブルスタンダードである。
わが国はもっと基本に立ち戻った、責任ある行動を取るべきで、まずWCPFCでクロマグロの科学的根拠に基づいた「基本中の基本」である早期の資源回復を目指した適切なABCに合意し、その上でTACに合意し、そして日本の国別漁獲量に合意すべきだ。責任ある国家として、明快で誰からも分かりやすい正しい道を歩んでほしいものである。
(こまつ・まさゆき)