予想される「軽減税率の迷路」

大藏 雄之助評論家 大藏 雄之助

EUなど矛盾した例も

軽減の恩恵は高額所得者に

 いよいよ来年4月から消費税が8%に上がることになった。この3%の増税に反対している政党もあるが、それは今や論外であり、焦点はさらに1年半後に10%に引き上げられる際の食料品などの生活必需品の軽減税率である。

 安倍総理は公明党が強く要望しているところから、自民党税調にも政府の関係部署にも、できるだけ配慮するように指示しているようだが、そう簡単ではない。

 日本の消費税に相当するアメリカの売上税は州によって税率が違うが、逆進性を考慮する軽減措置はない。

 欧州連合(EU)は加盟の条件として15%以上の付加価値税を課すことを義務付けており、同時に、ゼロ税率および5%以下の軽減税率を否定している。にもかかわらず、イギリスはそれに大幅に違反しているし、フランスやドイツもそれに近い軽減税率を適用している。これはほとんどの国がEUの統一基準ができる前から社会政策等を理由に軽減税率をとりいれていたためである。

 今となっては同じ商品でも軽減率が異なるなどの矛盾を生じているが、ほとんどの加盟国の標準税率が20%前後になっている現在、廃止する勇気のある政府はない。

 例えば誰が考えてもおかしいと思われるのは、ドイツのスーパーマーケットでハンバーガーを買って持ち帰ると食料品扱いで7%に軽減されるのに、店内で食べると外食扱いで19%課税される。それを確認してわざわざ摘発する人がいるだろうか。そこでイギリスでは、ハンバーグのあたたかさで区別しているが、その温度差を何度にするかがあいまいである。

 日本では買った果物でも店内で食べる人は少ないから、軽減税率は品物の種類で決まることになるだろう。けれども、それがまた問題である。塩・みそ・しょうゆなどを基礎食品として軽減するとしても、それぞれが原料も製造方法もさまざまでかなりの値段の開きがある。高級品を購入する金持ちの方が得することになりかねない。低所得者のための配慮であっても軽減の恩恵は高額所得の家庭にも及ぶのである。

 生活必需品に軽減税率を導入した場合の税収減がどれだけになるかは正確には想定できないが、基礎食料品の税率を1%下げるだけでも公明党の試算によれば2560億円ほどの影響があろうと言われている。消費税はすべて社会保障費の財源とすると決められているから、最終的に5%の消費税率引き上げ分が国庫に入らなければ、今でも不足している福祉関係部門は改善できない。

 税の中には所得税のように収入格差を是正する働きをするものもあるものの、すべての税は法律の定めのとおりもれなく徴収されなければならない。それを実現するために国民総背番号制も検討されているのである。あいまいさを生む軽減税率は誤りであり、所得の少ない層には社会保障制度できめ細かく対応すべきであろう。

 現行の消費税収納には簡易課税という不公平がある。われわれは通常の買い物のつど5%の消費税を負担しており、事業者はその金額を預かって後日納付することになっているが、年間の売上額が5000万円以下の中小企業は事務負担を軽減するために、業種ごとに実際よりも低い「みなし仕入れ率」が設定されていて、その差額が余得となっている。EUは付加価値税をきちんと把握する目的で、零細な小売店でも取引ごとに金額等を記載したインボイスを順送りする決まりである。

 日本ではこれを軽減税率が正しく適用されていることを証明する手続きであると解して、新たに軽減税率が認められるとインボイス発行の煩瑣(はんさ)な事務がふえることを理由に中小企業の団体が反対している。しかし、それは間違いで、軽減税率とは無関係にインボイスをつけて消費税がもれなく税務署に入るようにしなければ公正ではない。

 それぞれの立場で主張に差があるのは当然だが、その根拠が歪(ゆが)められていたり、我田引水であってはなるまい。

 少し話は違うが、最近、政党支部の政治資金を監査する税理士や公認会計士が相手方に多額に寄付をしていて、第三者としての客観性が疑われる事例があった。もしもテレビのスポンサーが自社の提供番組の内容を自社の調査研究員に論評させたらおかしなことになる。

 そのような非常識なことを公然と行っている例がある。朝日新聞はテレビ朝日の『報道ステーション』の「提供スポンサー」の一社であるが、そこに朝日新聞の記者が解説者として報道内容を裏付け強化に一役買っており、反対意見を厳しく批判している。良識あるジャーナリズム機関のはずの朝日新聞の内部にはこれに疑問を呈する者がいないのだろうか。

(おおくら・ゆうのすけ)