景況感改善に消費増税が大きな懸念材料
景況感の改善が大企業から中小企業にも広がってきたことが、12月の日銀短観で確認された。企業業績の改善は円安・株高による面が大きく、いわゆるアベノミクスの成果と言える。
ただし、設備投資計画は下方修正され、先行きは大企業、中小企業とも悪化を見込むなど、警戒感も漂う。来年4月の消費増税が大きな懸念材料となっている。
設備投資計画は下方修正
景況感改善の広がりは、何よりである。大企業製造業は4四半期連続の改善で、業況判断指数はリーマン・ショック前の2007年12月調査以来6年ぶりの高い水準である。非製造業も前回を上回り、特に中小企業は約22年ぶりにプラスに転じた。
アベノミクスの大胆な金融緩和と財政出動により、円安・株高が進んだことで、市場の沈滞ムードが変わった。円安で輸出環境が好転し、公共事業を中心に内需の堅調が続いて企業収益が大幅に改善された。そして、今回はさらに、消費増税前の駆け込み需要も加わった。
特に、今回の短観の大きな特徴である中小企業の景況感の改善は、製造業では機械、自動車などの加工業種、鉄鋼、紙・パルプなどの素材業種、非製造業でも建設、卸売、小売など広範に及んだ。24業種で改善し、悪化したのは食料品の1業種だけである。
さらに雇用面にも明るさがみられ、人手不足感が大企業だけでなく、中堅、中小企業でも強まっている。アベノミクス1年の成果である。
本来ならば、ようやく中小企業まで広がってきた景況感の改善がさらに進むようにし、所得の向上など家計が景気回復を実感できる段階にまで持っていきたいわけである。
しかし、今回の短観のもう一つの特徴である先行きへの不安が、どうしても拭えない。来年4月の消費税率5%から8%への引き上げのためである。
大企業から中小企業まで、景気の先行きについては悪化を見込み、それが景気を牽引すべき大企業製造業の設備投資計画の下方修正に結びついている。
また、輸出産業を代表する大企業製造業の自動車や電気機械で、業況判断指数が2ケタの上昇だった前回調査と比べ、それぞれ4ポイント、2ポイントと伸び悩んだ。増税前の駆け込み需要が期待される大企業・建設も、先行き悪化を見込んでいるため「住宅着工の駆け込み需要は既にピークを越えたようだ」との指摘も出ている。
先行きへの懸念が広がる中、景気回復のカギを握るのは、国内総生産(GDP)の6割弱を占める個人消費に影響を与える賃上げの実現である。
経営トップの一部からは、来年春闘でのベースアップ方針の声も聞かれる。しかし、設備投資にも依然慎重な姿勢を崩せない中で、消費増税で見込まれる物価上昇率以上のアップができるのか。
強まるばかりの不透明感
軽減税率導入の先延ばしに、景気腰折れ防止には力不足の5・5兆円の経済対策。アベノミクスの第3の矢である成長戦略と輸出に期待がかかるが、これまた先行きは不透明である。
(12月21日付社説)