補助金で衰退する日本漁業
漁獲資源の回復策施せ
影響しないTPP関税率減
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は水産業にも影響を及ぼす。国民の関心を集めながら、秘密交渉を通し、国民に説明しない交渉も例を見ない。
政府のTPP関連の政策大綱は、自民党の支持基盤である農林水産業団体に配慮した内容となった。持続性を重視すると言いながら、その内容は「広域浜プラン作りに基づく担い手へのリース方式による漁船の導入」、「産地施設の再編整備」などばらまき的要素の強い補助金と変わらない。制度改革、技術のイノベーションや資源・漁業の回復のための中長期政策がない安直な補助金配りである。これでは日本の漁業はさらに衰退しよう。
また、日本の農林水産物の輸出を2020年までに1兆円とする目標を掲げた。しかし、最近の水産物輸出の金額を見ると2757億円(15年)で目標の約4分の1程度である。日本には総合衛生管理製造過程(HACCP)対応など高度化した水産加工工場が全工場数の約10%しかない。東日本大震災後の加工対策でも現状維持・復旧対策だけで、高度化施設には財政支援をしなかった。本年もアフリカ諸国への小型のサバなどの輸出にとどまろう。
国内にまともな漁業生産物を供給する科学的根拠に基づく資源の管理の体制を構築し、資源の乱獲と悪化を防止することだ。
日本市場の魅力減退
農・漁業関係者からのTPP合意に対する反発は強い。そのため漁業関係者が政府と自民党に要求していることが、関税率の引き下げによる影響の緩和であり、経営の損失の補てんだ。
しかし、水産物の実質関税率が昭和38年(63年)にマグロで3・5%になってから、事実上の自由化が達成されており、TPPの関税率の段階的引き下げで大きく影響を受けることはない。
なぜなら、02年には1㌦が120円程度だったが、輸入が史上最高の372万㌧に達していた。それが、12年ごろには78円まで円が高騰し、33%も円が強くなり、33%相当の関税が撤廃されたと同様の効果を持ったが、輸入水産物は100万㌧も減少した。現在も249万㌧(15年)である。
すなわち、今回の3・5%の平均関税の撤廃と高い物でもアジやサバやサンマなど10%の関税が11年目に撤廃されても、むしろ輸入は減少しよう。マサバはノルウェーが、マアジはオランダが輸出国ではあるが、これらは国際的相場を見て市場が決まる。
200カイリ体制が敷かれ、日本の大手漁業会社が米国やバンコクに工場を進出させ、1990年当時はすり身、フィレーや魚卵製品の70%から100%を日本向けに輸出していたが、現在は70~80%は欧州や米国本土などのマーケットへの販売が主体であり、日本市場は20~30%で、魚卵など日本市場の比率が高いものでも50%程度である。
日本市場が高齢化と人口減少社会に向かい、経済の停滞で購買力が、中国や東南アジア諸国や旧東欧諸国に日本は買い負けの状況になった。急速に輸入が伸びた国は中国であるが、100万㌧程度(94年)が現在では430万㌧(14年)と急増している。
また、米国も150万㌧(94年)が250万㌧(14年)と100万㌧も増加している。隣国の韓国などは30万㌧(94年)が130万㌧(14年)と4・3倍に増加している。日本を素通りするようになってしまった。「輸入水産物が日本市場に入ってくるから、その影響の緩和措置を講じろ」ではなく、如何に国内供給と輸入を確保するかが、日本の課題である。経営体質の脆弱な漁業経営体への補助金の提供を行っても、脆弱さを温存する逆の効果でしかない。
科学的資源管理に消極的な日本
ところで、日本に輸入される水産物のほとんどは、ノルウェー、アイスランド、カナダと米国アラスカ州のように、世界の超一流の水産国からの輸入である。これらの国々は、科学的な資源の評価を実施して、資源を持続的に維持ないし回復の目標を設定し、客観的な目標の数値である生物学的許容漁獲水準(ABC:Available Biological Catch)を計算し、ABC以下に総漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)を設定している。
さらに、これを漁業者の歴史的な漁獲量実績などに基づき、個別の漁業者に配分して、個々の漁業者が漁獲する個別漁獲割当制(IQ:Individual Quota)を採用している。漁業者の過剰な投資や無駄なコスト投入を避けるために譲渡可能性を与え、漁獲枠の売買や移譲が可能な制度は個別譲渡性漁獲割当制(ITQ:Individual Transferable Quota)と言われる制度であり、これによって、外国は、資源の回復と漁業の活性化を図った。
だからこそ、ノルウェーのマサバやアイスランドのアカウオと米国アラスカの紅鮭やピンクサーモンは日本市場に入り込んでいる。コンビニの紅サケやイクラのおにぎりはこのようにしてできたものである。
日本は、このような現代世界の趨勢になっている科学的資源管理の導入に消極的だ。いつになったら、このような先進諸国の実例に学ぶのであろうか。補助金のばらまきで問題の解決を先送りしている暇と無駄は直ぐにやめなければならない。
(こまつ・まさゆき)






