世界の軍事技術移転の潮流

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

コピーで改造は困難に

「共同」「ライセンス」が堅実

 今年の米韓共同軍事演習は、例年になく激しいやり取りがあったが間もなく終了する。米韓側は、新たな共同作戦計画5015に基づき、一旦発動されたら北朝鮮指導部を殲滅することを明らかにし、北朝鮮は「容赦なき無慈悲な先制核攻撃」を宣言し、ミサイル発射等の恫喝的活動を行ったことは読者ご存知の通りである。

 特に前回指摘したように、北朝鮮はR27(SSN6)系誘導弾の開発を急いでおり、国際的非難の高まるなか、米韓共同演習はミサイル発射の絶好の機会であるとの認識があったものと推察される。ところが、4月15日金日成誕生記念日(太陽節)を期して打ち上げたムスダンミサイルは、発射後数秒で空中爆発し、無残な結果となった。

 ムスダンは、1992年旧ソ連マカエフ設計局から、技術者とともに技術導入を開始、03年試験配備を開始したとされる。以後イランへの輸出、イランでの発射試験を経て、07年以降軍事パレードに登場、移動式発射台に載せて威容を誇示してきた。射程3500㌔程度の中距離弾道弾で、50基程度を保有していると推察される。

 また、12年そして本年2月、人工衛星と称して打ち上げた長距離弾道ミサイル(デポドン2改)も、第一段ロケットは、ムスダン4基をクラスター化したものと言われており、今回の失敗は大きな衝撃であったろう。また、弾頭はロケットの燃焼時間後、切り離して落下させる方式で、命中精度が極めて大まかなこと、燃料は常温維持可能タイプの液体燃料であるため燃料注入後の品質管理に高い制限があることなど、兵器として問題は多々ある。

 今回失敗の原因は不明であるが、試験発射回数の極端な少なさから、今後も不安定な発射形態を余儀なくされるのではないかと考えられる。この様にしてみると、北朝鮮のミサイル技術は、旧ソ連のスカッド、R27といったロケット技術の移転がその根幹にあることは論を俟たないが、今後の推移については、国連決議(2270号)により、ロシアの厳しい対応があるであろうことから、厳しくなっていくことが予想される。

 軍事技術の移転といえば、中露の軍事技術交渉がもう一つの大きな問題である。中露関係は、中ソ対立、蜜月時代など大きく変化しながらも、社会主義の大国として特殊な友好関係を構築してきたが、軍事技術に関しては一方的にロシア(ソ連)からの技術供与によるものと言える。

 しかし一方では、中国はソ連から導入した旧世代機材を元に、改良改修の努力を続けてきたのも注目されるところである。そして90年代後半、ソ連崩壊の機を捉えて、各種の先進兵器の導入に成功する。水上艦艇、潜水艦、戦闘機等一斉に近代化する動きを見せたが、特異なやり方として、導入兵器のコピー生産を公然と行い、知的財産権に関し、国際常識を無視した見解を主張した。

 最も顕著な例は、ロシアより輸入、ライセンス国産したSU27の機体を無断改修、国産太行エンジン(WS10)を搭載し、国産戦闘機J11Bとして約200機を運用していることである。しかし、現在では、輸入したロシア製エンジンAL31搭載のJ11Aに比し推力不足が解決しない状況にあり、新型機(SU35)の導入に伴う新型エンジンの取得に努力している。

 最新の軍事技術は相当深くかつ高度に研究された結果であり、材質、加工、制御といった各面で完全にコピーするのは困難な次元にあることから、中国のコピー機については、資源を投入して努力しているものの、所望の性能を得るには10年程度の時間がかかるものと見られる。その他、世界の注目を浴びている空母関連技術をはじめ、中国軍事技術の発展の状況は大いに注目する必要がある。

 もう一つの軍事技術の移転の方式は、はやりの国際共同開発である。来年導入される航空自衛隊F35戦闘機は、国際共同開発の典型とされるが、開発費の高騰に対応するため、今後その傾向は拡大すること必至であり、共同国の生産分担方式にもよるが、技術移転の新しい方式と言える。露印間では、第5世代戦闘機バンガロールの開発が合意されているし、ユーロファイターで実績のある欧州諸国の共同開発も進んでいる。我が国の通常型潜水艦技術も、さらなる発展を期して豪州海軍潜水艦プロジェクトに共同開発を名乗り出る動きに出たことも時代の進化を感じる。

 総じていえば、軍事技術は、ますますその先進性を高めており、装備購入という取引で、兵器として導入、運用は可能であるが、これを元に自国の技術として取り込み、改修発展を試みるのは大変難しくかつ困難と言える。翻って我が国の場合、「高い買い物」と言われながら、最新鋭の兵器を購入し、これをライセンス国産することにより技術を取得し、軍事技術の先進性を維持してきたのは、今にして思えば堅実な選択であったと感じ入る。

 ちなみに我が国が世界に誇るH2ロケットは、N1、N2、H1の3代25年に渡って、主エンジンは、米国デルタロケットのライセンス国産という長い労苦の末たどり着いた国産技術の結晶である。先端軍事技術を我がものとするには、大変な努力が必要とされることを強調するとともに、高い技術を持つロシアの経済的困窮があり、中朝の技術の動向を注目していきたい。

(すぎやま・しげる)