中国を含む武器管理交渉が必要

ビル・ガーツ

ビル・ガーツ氏

 2010年に米露間で交わされた新戦略兵器削減条約(新START)が21年に失効する。トランプ米政権は、新たな条約に中国も参加させて、中露の核戦力増強に歯止めをかけたい意向だが、中国は多国間の武器管理交渉への参加を拒否している。

 国家安全保障会議(NSC)のモリソン大量破壊兵器・生物兵器防衛担当上級部長は5月下旬、ワシントンで開催された会合で講演し、「トランプ大統領は、米国民と同盟国に真の安全をもたらすためにはロシア、中国両国と交渉する必要があるとの結論を出した」と指摘、冷戦時のような、一部の核兵器、一定の射程のミサイルだけを対象とする2国間武器管理条約の時代は終わったと主張した。

 NSCは、新STARTの延長の是非をめぐり国務省と国防総省との間の調整を進めており、来年には結論を出す予定だ。

 新STARTは、米露の地上、潜水艦、爆撃機から発射されるミサイルの核弾頭を1550発に制限している。

 ロシアは、新STARTに直接、抵触してはいないが、戦略的安定のため核の削減を目指す同条約の意図に反し、メガトン級の弾頭を搭載した水中ドローン、10発以上の弾頭を持つ大型大陸間弾道ミサイル(ICBM)、原子力核搭載長距離巡航ミサイル、極超音速兵器など複数の新型兵器の開発を進めている。

 モリソン氏は、「米国の抑止力を弱めることなく、ロシアと中国の核兵器増強を止める条約が交わせれば、米国の安全保障に資する」と新たな武器管理条約の必要性を訴えた。

 米国が武器管理条約への姿勢を変えたのは、中露が核戦力の増強を意欲的に進めていることが一因だ。

 中国は軍拡競争は望まないと主張しているが、モリソン氏は「競争していないのは米国だけだ」と中国の主張を否定、新条約は、中露の増強計画を封じ込め、軍拡競争を阻止するものでなければならないと主張した。

 さらに、中国を戦略兵器削減交渉に参加させることが、新たな時代の戦略であり、中国が武器管理条約に縛られない現状は受け入れられないと訴えた。

 中国は、米露の武器管理交渉には加わらないことをすでに明確にしている。中国外務省の陸慷報道局長が5月16日、「3カ国間の核兵器条約への交渉には参加しない」と断言したばかりだ。

 中国の武器管理交渉への考え方は、05年の北京での米中高官の核をめぐる協議を記録した国務省の極秘文書から明らかになっている。この文書によると、当時、外務次官だった何亜非氏は、核兵器に関する情報を公表しないことについて、核兵器の規模を公表すれば、抑止力が失われると主張、「今は、何を持っているかを他国に明らかにする時ではない」と語っていた。

 モリソン氏は、中国が交渉参加を拒否していることについて、「中国が、最低限の抑止力保持に関心があり、本当に先制不使用を目指し、国際社会の責任ある一員であろうとすれば、武器管理に関心を示すはずだ」と中国の交渉参加を呼び掛けた。