与党が圧勝したインド総選挙
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ
国民は経済より安保優先
モディ首相の強い指導力支持
世界最大の民主国家インドでの5年に1度行われる下院議員選挙は与党人民党の圧勝で無事終了した。モディ首相のインド人民党(BJP)は前回の282議席に対し今回は303議席を獲得することで単独でも政権を堂々と継続することになった。伝統的与党として独立以来インドの舵(かじ)を取ってきた国民会議派は、前回に比べ多少議席を増やしたものの政権奪回には及ばず、ネルー、インディラ・ガンジー、ラジブ・ガンジーに続く4代目のラフル・ガンジー総裁は名門としては屈辱的な敗北であった。
ラフル・ガンジー氏個人としての誠実な人柄や、努力に対してはそれなりの評価が出始めていた。昨年11、12月の五つの州の選挙では人民党の支持率が低迷し、ラフル・ガンジー氏率いる国民会議派に有利な風向きとなった。それだけに今回の選挙では政権奪回の可能性も見えてきたように報道されていた。
テロ事件を契機に好転
しかし、今年2月にインド北部ジャム・カシミール州で発生したテロ事件を契機としたパキスタンとの軍事衝突が、モディ政権にとっては好転するきっかけとなった。このテロ活動に対し、モディ首相は国民の団結を訴え、パキスタン領内のテロリストの拠点とされる地域を空爆し、国民の熱狂的な支持を勝ち取った。また昨年末の地方選挙の敗北によって危機感を抱いた与党は、アミット・シャー総裁を中心とした巧みな組織固めと選挙活動を全力で行った。
当初、人民党は、モディ首相の実績として州ごとにばらばらであった間接税を一本化する物品サービス税の導入や、ブラックマネーが国の汚職や外国勢力のテロ資金になっているとして高額紙幣廃止の改革や、政権を担当した時より50%の経済成長を見せるなどの実績を争点として持ち出そうとした。
これに対し野党は、この成長の恩恵は国民全体が共有しておらず貧富の格差が増大したこと、一部のヒンドゥー至上主義者によるイスラム教徒などに対する行き過ぎた行為がインドの誇りである寛容性と多様性を危うくしていること、さらに失業者の問題などを取り上げて6・7%という高い国内総生産(GDP)の伸びを達成したにもかかわらず失業者が増加したことなどを選挙の争点にしようとした。
しかし2月に起きた自爆テロ行為以来、国民はモディ首相の強い指導力と国家の安全保障に関心を移した。日本であれば外交問題や安全保障などは選挙のテーマとしては全く票につながらないが、インドをはじめとする他のアジア諸国では国家の主権と領土の安全は優先課題として認識していることが今回の選挙の結果にも表れているように思う。
インドの選挙は約9億人の有権者が100万箇所の投票所に脚を運び、6割以上の有権者が電子投票を行った。この電子投票システム自体もモディ政権が誇るインドの近代化を象徴するものの一つである。ただし残念ながらいまだに有権者の3割は候補者の名前を書けず、党のマークを見て投票するような面もある。また日本とは違い、議員総数545人のうち2人は大統領の任命によるものであり、投票の対象にはなっていない。インドの民主主義は極めて安定性があり、国民もそれを誇りにしていることは67・1%という高投票率からも見受けられる。
対中国で日米豪と連携
5月30日には新内閣が発足し、モディ首相は安定した政権をリードすることは確実である。これはインドのみならず日本にとってもアジアにとっても良い出来事と受け止めるべきである。
モディ首相は過去5年間に、過剰な官僚制度の改革や外交手腕として中国に対しても毅然(きぜん)とした態度を取り、中国の一帯一路戦略には反対の立場を貫き、4月に行われた北京での国際会議にも欠席した。中国の軍事的経済的覇権主義には、安倍首相と同様アメリカ、オーストラリア、日本などと手を携え立ち向かう姿勢を明確にし、「自由で開かれたインド太平洋構想」でも安倍首相やトランプ米大統領ともその重要性を確認し、個人的な信頼に基づき行動を共にする約束をしている。