辺野古承認撤回、安保環境の悪化を直視せよ


 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画をめぐり、翁長雄志同県知事は仲井眞弘多前知事による埋め立て承認を撤回する手続きに入ると表明した。

求心力向上を狙う翁長氏

 翁長氏はその理由として①防衛省沖縄防衛局が全体の実施設計や環境保全対策を示さずに着工した②埋め立て海域で軟弱地盤が見つかり護岸崩壊の危険性がある――ことなどを挙げた。県は防衛局に行政手続法に基づく聴聞を行った上で8月中旬にも撤回に踏み切る予定だ。

 県は2015年10月、仲井眞氏の埋め立て承認に「瑕疵(かし)があった」として取り消した。しかし、最高裁はこの判断を「違法」と結論付けた。撤回は承認後に生じた事情によって効力を失わせるものだが、政府は希少サンゴの移植などに取り組んでおり、環境対策を示していないという指摘は当たらない。

 翁長氏は辺野古移設反対を掲げ、14年の知事選で当選した。だが、移設は普天間の危険除去と米軍の抑止力維持のために必要な措置だ。これを妨害する動きは、日本の安全保障を全く考慮しないだけでなく、沖縄の基地負担軽減を遅らせるものだと言わざるを得ない。

 翁長氏は撤回によって、政府が8月17日に予定している埋め立て海域への土砂投入の阻止を目指す。移設工事は一時中断するが、政府は裁判所に執行停止を申し立てて影響を最小限にとどめるとともに、県を相手取って撤回処分の取り消し訴訟を起こして対抗する方針だ。

 菅義偉官房長官は辺野古移設について「最高裁判決の趣旨に従い、国と県の双方が協力して埋め立て工事を進めていくことが求められている」と述べた。国と県の対立をあおるような翁長氏の姿勢は残念だ。

 翁長氏が撤回の考えを示した背景には、移設反対派の圧力が強まっていることがある。移設阻止のための有効な手だてを打ち出せない翁長氏への不満は強まっており、翁長氏には11月の知事選に向けて求心力を高める狙いがあるのだろう。だが自身の再選のため、辺野古問題を利用することは許されない。

 米朝首脳会談などで北東アジアの緊張緩和が進んでいることを撤回の理由に挙げたことも理解に苦しむ。ポンペオ米国務長官は「北朝鮮が核物質の生産を続けている」と明らかにした。北朝鮮が米朝首脳会談で合意した「完全な非核化」を実現しようとしているのか疑わしい。

 また、中国は沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張している。尖閣周辺で領海侵入を繰り返している中国海警局は今月、準軍事組織の人民武装警察部隊(武警)に移管され、中国が尖閣奪取への動きを強めることが懸念される。米軍が中朝両国ににらみを利かせるためにも辺野古移設は不可欠だ。

米軍の存在は極めて重要

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出によって日本を取り巻く安全保障環境は悪化している。

 要衝である沖縄に駐留する米軍の存在は、日本や北東アジアの平和のために極めて重要だ。翁長氏はこうした現実を直視する必要がある。